ターゲット一人ひとりに合った広告が流せるとして、近年、D2C広告が注目されています。D2Cとはメーカーが商品を、直接消費者の元へ届けられるマーケティング手法です。D2Cを進めるなかで活用する広告というが、本記事で紹介する「D2C広告」となります。
D2C広告の活用方法は、ディスプレイ広告やリスティング広告などさまざまです。本記事ではD2Cの概要に始まり、D2C広告と従来の広告の違いや5つの活用方法などを解説します。
そもそもD2Cとは?
D2C広告について解説する前に、まずはD2Cというマーケティング手法について説明します。D2Cマーケティングとは、商品を消費者のもとへ直接販売する仕組みのことです。D2Cマーケティングと似た手法のなかには、B2CやECといったものもあります。本章ではD2Cの概要はもちろんのこと、B2CやECとの違いについても解説していきます。
D2Cについて既にご存じの方は確認として、よく分からないという方は、本章でインプットしてください。
商品を直接販売するマーケティング手法
D2Cとは「Direct to Consumer(直訳:消費者に直接)」の略です。製品を作るメーカーが、自社で製品の企画から製造・販売・流通までを一貫しておこなう仕組みそのものを指します。D2Cが誕生したのは、2000年代後半のアメリカです。ブランドのスモールスタートを可能にする手法として、近年は日本でも大きく注目されています。
D2Cマーケティングの大きな特徴は、メーカーが直接消費者に向けて製品を販売できることです。メーカーと消費者との間に、小売店などの仲介を挟まずやり取りができます。ブランドを立ち上げる際のコストは、大幅に削減できるでしょう。
D2Cマーケティングを成功に導くポイントは、メーカーがもつ「情報の発信力」に大きく依存します。そのため本記事のメインとして解説する「D2C広告」を効率的に活用することが、不可欠となるのです。
B2CやECとの違い
D2Cと混同されてしまう用語に、「B2C」や「EC」というものがあります。B2Cは「Business to Consumer」の略であり、企業が一個人に向けて製品やサービスを販売するビジネスモデルのことです。個人ではなく、企業と企業の間で取引がおこなわれるビジネスモデルのことをB2Bと呼びます。
いずれの場合も個人や企業など取引の「対象者」を表した用語であり、マーケティング手法を指すD2Cとは異なります。メーカーと消費者との間に小売店など仲介業者を挟むケースもB2Cに含まれ、この点も両者の大きな違いです。
ECは、「Electric Commerce(直訳:電気商取引)」の略です。ECはインターネット上の取引全般を表し、オンラインショッピングなどと呼ばれることもあります。D2Cによって製品を販売する手段のひとつとしてECサイトを活用することもあり、両者の関係性は「D2Cで品物を販売する方法のひとつがEC」です。
従来の広告とD2C広告の違いは?
ここまで、「D2Cを成功させるためにはメーカーの情報発信力が不可欠である」と解説しました。そのためには、D2C広告をより効率的に活用しなければなりません。効率的な活用には、従来の広告とD2C広告との違いを理解し、その特徴を活かすことが必須です。
本章では、D2C広告の強みを解説していきます。
ターゲットに合った広告が流せる
D2C広告の大きな特徴は、ターゲット一人ひとりに合った広告を流せることです。昔ながらの広告としてまず思い浮かぶのは、テレビのCMや新聞のチラシでしょう。これらの広告には、一度に不特定多数の人に向けて宣伝できる強みがあります。一方で、反対に特定のターゲットへ向けた訴求は難しいといえるでしょう。
近年では、同じ内容の広告を多くの人へ届けることよりも、一つ一つの広告がしっかりとターゲットへ刺さる内容となっているか否かが重視されます。不特定多数へ向けた従来の広告では、ターゲットを絞ることはできません。
ターゲットを絞って広告を配信することで、上質なデータを集めることも可能です。特定のターゲットへ向けた広告が発信できる点は、D2C広告の大きな強みといえます。
SNSからの流入も望める
D2Cマーケティングの場合、SNSやWebメディアなど複数の媒体を併用するのが一般的です。そのため流入経路も幅広く、SNSからD2C広告への流入も望めます。
多数の媒体があるなかで、近年とくに注目されているのがSNSです。広報担当者のなかに、SNS専門の人材を配置している企業もあるほどです。SNS の強みは、何と言っても拡散力にあります。ひとつの投稿がバズることで、一気に多くの人に情報が広がるためです。
D2Cマーケティングのターゲットとなるミレニアル世代やZ世代の間では、SNSは「日常の一部」と言っても良いほど深く浸透しています。SNSからの流入が望めるD2C広告は、ターゲットとなる世代の傾向を踏まえても、時代のニーズに沿った手法といえるでしょう。
出稿先のバリエーションが豊富
D2C広告は、出稿先のバリエーションが豊富であることも特徴です。従来の広告であれば、テレビや新聞のように広告の配信先がある程度限定されていました。また「テレビ向けにはAパターン」「新聞にはBパターン」というように、広告内容の細かな調整が必要です。企業によっては、「複数パターン用意することが難しい」といった欠点もあります。
D2C広告の場合は、メディアや検索エンジン、各種SNSなど広告を配信できる出稿先が多いため、より多方面へ広告を届けることができます。
また出稿先によって、広告の内容を変えることもできるため、各媒体のユーザーにあった訴求ができる点も効率を上げるでしょう。ターゲットだけでなく媒体の特徴をも、広告に反映させることができます。
双方向のやりとりが可能になる
テレビCMや新聞のチラシといった従来の広告では、基本的にメーカー側が消費者に対して、一方的に商品の宣伝をおこなうというものでした。つまり製品におけるセールスポイントをメーカーが伝えることはできても、情報を受け取った消費者の疑問や課題を汲み取ることはできません。
一方のD2C広告は、企業と消費者が双方向にコミュニケーションをとれます。従来通り製品に関する情報を提供するのはもちろんのこと、消費者の疑問や課題を汲み取り、ともに解決を目指すことが可能です。さらに双方向のコミュニケーションは、消費者からの信頼を得ることにもつながります。
ユーザーのニーズを新製品に反映することもできるため、消費者にとって「本当に必要な製品・サービス」を提供し続けられるでしょう。
D2C広告を活用する5つの方法
D2C広告の活用方法は、大きく5つに分類できます。ディスプレイ広告やリスティング広告、SNS広告、リターゲティング広告、アフィリエイト広告です。いずれの広告も特徴や効果が異なるため、自社の製品やターゲット即した方法を洗濯しなければなりません。
本章では、それぞれの広告について解説します。自社が採用すべき広告はどのタイプなのか、検討してください。
1.ディスプレイ広告
ディスプレイ広告とは、Webサイトなどにあらかじめ用意されている枠内に広告を掲載するものです。バナー形式で表示されることから、バナー広告と呼ばれることもあります。
画像はもちろん、動画を掲載することも可能で、ユーザーに対して視覚的にアプローチできます。テキストのみの広告よりも写真や動画を掲載することで、自社商品の魅力やブランドの世界観などがストレートに伝わります。
近年は、若年層を中心にテレビや新聞よりもインターネットを利用しているユーザーが圧倒的に多い傾向があります。若年層をターゲットとするD2Cマーケティングの場合は、テレビCMよりもディスプレイ広告によるアプローチが効果的です。
ディスプレイ広告を活用することは、予算の最適化にもつながります。ディスプレイ広告は、動画の再生回数やクリック数などの目標を細かく設定します。それに応じた予算を割り当てられるため、高い費用対効果を期待できるでしょう。
2.リスティング広告
リスティング広告とは、Google検索エンジンの上部や下部に表示される広告のことです。 ユーザーが検索した内容に即した広告が表示されるため、ターゲットのニーズに合った広告を打ち出せます。
ユーザーの悩みや課題にあわせた検索ワードの候補を設定しておくことで、すでに興味関心が高まっているユーザーに対してアプローチできます。
リスティング広告は、費用の上限を設定できるだけでなく、1日あたりの予算も細かく決められます。広告の目的やターゲットに合わせて配信設定がおこなえるなど、自由度が高い点も魅力です。
ただし、リスティング広告の場合はディスプレイ広告とは違い、基本的にテキストのみの広告となります。 またテキストの文字数にも制限があるため、短い字数のなかで製品の魅力を的確に伝えるスキルが必要です。
3.SNS広告
SNS広告は、名前のとおりSNSに掲載する広告です。ここでいうSNSには、Facebook・Twitter・Instagram・TikTok・LINEなどが含まれます。
タイムライン上に1つの投稿として表示される点が特徴で、ユーザーの目にとまりやすいといった強みがあります。ほかにもSNS内での検索ページやニュースフィールドに掲載されることもあり、フォーマットが多彩です。
SNS上への広告掲載は、企業アカウントのフォロワー数を増やすことが期待できます。認知拡大はもちろんのこと、ブランドの世界観を確立するうえでも有効な方法です。SNSならではの拡散力にも期待できるでしょう。
4.リターゲティング広告
リターゲティング広告とは、自社サイトに一度でも訪問したユーザーへ向けて配信する広告のことです。自社サイトを訪問したということは、自社の製品に何らかの興味や関心があることを示します。「少し興味があるターゲットを逃さないための手法」と考えると、わかりやすいかもしれません。
リターゲティング広告の仕組みとしては、まずユーザーの端末内に保存されているCookieの情報を利用します。ユーザーが特定のウェブサイトを訪問すると、CookieのIDが発行されます。既にIDを保有しているユーザーが再びウェブサイトを訪れると同一ユーザーであることを認識できるといった仕組みです。
このIDを広告掲載リストに追加することで、IDを保有している端末内のブラウザに広告を表示できます。
5.アフィリエイト広告
アフィリエイト広告とは、複数のメディアやSNSなどで商品を宣伝し、製品が購入されると宣伝したユーザー(アフィリエイター)へ報酬が支払われる広告です。アフィリエイト広告の場合はメーカーや企業が広告を作るのではなく、アフィリエイターが独自の広告を作成します。
企業としては、広告費用に成果報酬型を採用できます。企業は広告費を抑えることができ、アフィリエイターは報酬を得ることができるのです。
自ら広告を作成する必要がないため、一見すると手軽な方法と思われがちです。しかし、 アフィリエイターの紹介方法によっては、ブランドの名前に傷がつく可能性もあります。そのため、アフィリエイターの管理には細心の注意を払わなければなりません。
代表的なアフィリエイト広告は、以下の4つです。
SEOアフィリエイト
アドアフィリエイト
SNSアフィリエイト
インフルエンサーアフィリエイト
D2Cのメリット
D2Cを採用することのメリットは、以下の3つです。
流通コストの削減
顧客データを収集しやすい
ユーザーとの関係が構築できる
第一に、流通コストを削減できることが挙げられます。D2Cはメーカーが消費者へ直接製品を届けるビジネスモデルであり、基本的に仲介業者を挟みません。仲介料を削減できるうえに、毎月の維持費を抑えることも可能です。毎月の維持費には、小売店のテナント料やオンラインショッピングモールの利用料などが含まれます。
顧客データを収集しやすいことも、大きなメリットです。自社ECなどを用いて、消費者へ直接商品を販売する場合、ユーザーは商品購入時に氏名・住所・年齢・性別などの基本情報を入力しなければなりません。顧客の詳細なデータを収集できるため、今後のマーケティングに大いに役立つでしょう。
SNSを活用するD2Cでは、双方向のコミュニケーションが基本となります。消費者へ一方的に情報を届けるのではなく互いの情報を共有できるため、消費者との関係構築がスムーズになります。
D2Cのデメリット
D2Cには、多くのメリットがある一方でデメリットもあります。
顧客の定着までコストがかかる
ビジネスの安定までに時間がかかる
D2Cを成功させるためには、デメリットをどのようにカバーしていくのか、事前に検討しておくと良いでしょう。
D2Cは、一般的に効果が現れるまでに時間がかかります。顧客の定着やビジネスが安定するまでには長期間を有することを、覚悟しておかなければなりません。
顧客の定着までにかかるコストは、時間的コストだけではありません。D2Cでは自社で製品を販売するために、まずプラットフォームを構築する必要があります。ユーザーの利便性を考慮したサイト環境を維持するためにも、その費用がかかるでしょう。
コストかけて販売環境を整えたとしても、すぐに事業が安定するわけではありません。認知度が向上するまでにも、時間がかかります。
費用と時間、どちらのコストもしっかりと確保したうえで、D2Cを導入してください。
D2C広告の活用事例
D2C広告を活用しようと考えた場合、メリットやデメリットを踏まえて検討していくことは非常に重要です。また、実際の活用事例から自社でどのように運営していくのか、あらかじめ「成功」をイメージしておくことも必要でしょう。
本章では、D2C広告の活用事例として大きく売り上げを伸ばした3社の例を紹介します。
BULK HOMME
メンズスキンケアブランド「BULK HOMME(バルクオム)」は、Instagram広告によって認知を広げたメーカーです。同社はD2C広告だけでなく、アカウントの投稿やTwitterにおけるキャンペーンを盛んにおこなったことから、ユーザーの間で徐々に口コミが広がっていきました。
同社がInstagramの運営を始めた当初は、プロのカメラマンが撮影したような洗練された写真を用いていました。しかし大きな効果は望めず、投稿する写真を実際に使用している写真に変更すると、瞬く間に売り上げが上がったそうです。
参考:BULK HOMME
COHINA
150cm以下の小柄な女性をターゲットとしたファッションブランド「COHINA(コヒナ)」も、D2C広告によって大幅に売上を伸ばしたメーカーです。同社がメインに活用しているのは、Instagramです。 広告に重きを置いているわけではなく、通常の投稿に力を注いでいます。
「400日間連続で動画を配信する」「イラスト入りの投稿をする」など、個人であっても可能な範囲の「通常の投稿」を継続するよう心がけているようです。
参考:COHINA
BASE FOOD
完全栄養食を提供している「BASE FOOD」は、Twitterを活用したユーザー体験型イベントから一気に認知を拡大しました。同社が提供するのは、1食で1日に必要な栄養素の3分の1を全てが摂取できる主食です。
話題となった体験型イベントでは、1ヶ月のうち20食をBASE FOODに置き換えてツイートしていくといった企画を実施しました。イベントそのものが広告の役割を果たしたことで、多くの人たちを巻き込んだムーブメントとなりました。
参考:BASE FOOD
D2Cにかかる費用
事業とは、安定するまでに費用がかかるものです。そこで気になるのは、いったいどのくらいの費用がかかるのかという点でしょう。もちろん必要な合計額は、何をゴールとするのかによっても異なります。
本章では、ローンチのみを目的とする場合と最低限の予算で進める場合とに分けて、成功までに必要な費用を解説します。
ローンチのみを目的とする場合の費用
とにかくローンチだけをD2Cのゴールと考えるならば、120万円程度かかります。費用の内訳は、以下のとおりです。
商品デザイン費
商品代金
写真撮影
LPの制作
決済手段の導入
カート代金
物流システムの導入
上記の項目は、D2C事業を始める場合に最低限必要なものとなります。ただし規模を拡大していき、事業として安定的な収益を得るためには、少し余裕を持って資金を確保しておかなければなりません。
最低限の予算でおこなう場合の費用
事業として収益化する場合は、370万円程度の費用が発生します。内訳は、以下のとおりです。
商品デザイン費
ブランドブック
商品代金
カート代金
商品の写真撮影
LPの制作費
決済手段の導入
キャスティング
コールセンター代行
A5チラシ両面カラー
サンキューカード
物流システムの導入
D2C広告で商品販売にかかるランニングコスト
D2C広告には、さまざまなランニングコストがかかります。ランニングコストには、 Web広告費や受電代行費用、在庫管理・配送コスト、ECカート、人件費などが含まれます。それぞれいくらほどの費用が発生するのか、商品の売り上げがどの程度であれば利益が出るのか(損益分岐点)なども考えたうえで、導入を検討してください。
Web広告費
D2C広告において発生するランニングコストには、まず「Web広告費」が挙げられます。もちろん自社メディアやSNSのみで、認知拡大を図る場合は広告費が全くかからないケースもあります。
しかし自社メディアとSNSのみでは、よほどの販売力がない限り大きく収益を上げるのは難しいでしょう。そのため、ある程度の広告費を 確保しておかなければなりません。大企業ともなると、広告に月額数千万~数億円かけている企業もあるほどです。
受電代行費用
商品への質問やクレーム対応などは、コールセンターで対応するのが一般的です。しかしこのコールセンターを自社で請け負うのは、あまり現実的ではありません。多くの場合は外部に委託するため、その代行費用はランニングコストに含まれるのです。
コールセンターを外部に設ける場合は、初期導入費用として約10万円、1コールあたり650~1,000円ほどの費用が発生します。
在庫管理・配送コスト
商品の在庫や発送においても、自社ですべてを賄うのは難しいでしょう。基本的には、在庫管理や配送も外部に委託します。物流会社と提携する際に発生する費用の内訳は、以下のとおりです。
入庫処理
ピッキング
不明商品処理手数料
返品処理手数料
配送料金
海外配送手数料
海外配送料
管理費
システム利用費
物流会社によって各項目の費用は異なりますが、最低限必要な項目は上記のとおりです。
ECカート
ECカードを利用する際も、月額の利用料約5万円がランニングコストに加わります。従量課金制のECカートである場合は、一件あたり数十円の費用が発生します。
ただし上記は、オプションなどをつけない場合の費用です。さまざまなオプションや機能追加することによってこの費用は、さらに高額になります。ユーザーの使い勝手を向上させるための費用なので、ある程度予算にゆとりを持たせておくと良いでしょう。
人件費
D2C事業をスタートする場合、当然ながら人件費も発生します。人件費においても、最低限の費用より多めに見積もっておくと安心です。とくにD2C事業の経験者が社内にいない場合は、コンサルティング・広告運用・デザイン・コーディングなどさまざまな業務を外部へ委託することになります。 その際の委託費用も、人件費に含まれます。