表明保証とは、M&A（企業の合併・買収）契約において、売り手が買い手に対して、取引対象となる企業や資産に関する情報の正確性や完全性を約束する条項を指します。この条項は取引リスクを軽減し、後のトラブルを防ぐために非常に重要です。この記事では、表明保証の基本的な意味、具体的な内容、実務における注意点について解説します。
1. 表明保証の基本概念
1-1. 表明保証の定義
表明保証（Representations and Warranties）とは、売り手が買い手に対して取引の前提条件に関する事実を正確に伝えるための契約条項を指します。これには、企業の財務状況、法的なコンプライアンス状況、資産の所有権などが含まれます。
1-2. なぜ表明保証が必要なのか
表明保証は、M&Aの取引リスクを低減するために必要不可欠です。売り手が提示した情報が正確であることを保証することで、買い手が予期せぬ損害を被るリスクを最小限に抑えます。また、万が一問題が発生した場合、買い手が売り手に補償を求めるための根拠となります。
2. 表明保証の具体例
2-1. 一般的な表明保証項目
以下は、表明保証において一般的に取り上げられる項目です：
財務情報の正確性：貸借対照表や損益計算書が正確であること。
法的コンプライアンス：関連する法律や規制を遵守していること。
資産の所有権：売却対象の資産に対して他者の権利が設定されていないこと。
知的財産権：特許や商標などの知的財産が紛争の対象ではないこと。
訴訟リスク：現在進行中または予想される訴訟がないこと。
2-2. 特定分野に特化した表明保証
業界や企業の状況によっては、特定の分野に焦点を当てた表明保証が求められることもあります。
例えば：
IT企業：ソフトウェアのライセンスやデータの保護に関する保証。
製造業：製品に関する安全性や環境規制の遵守。
ヘルスケア：医薬品の承認や臨床試験に関する規制遵守。
3. 表明保証のリスクと補償
3-1. 売り手にとってのリスク
表明保証には売り手にとってリスクがあります。たとえば、意図せず誤った情報を提供してしまった場合、買い手から損害賠償請求を受ける可能性があります。このため、売り手は保証する内容を慎重に確認する必要があります。
3-2. 買い手にとってのメリット
表明保証は、買い手が取引に伴う不確実性を減らすための強力なツールです。もし契約後に問題が発覚した場合、表明保証を根拠として売り手に補償を求めることができます。
3-3. 補償の範囲と期間
表明保証に基づく補償の範囲と期間は、契約書で明確に定められます。一般的には、補償期間は1～3年程度とされることが多いですが、税務や環境問題に関してはさらに長期間が設定されることもあります。
4. 実務における注意点
4-1. 十分なデューデリジェンスの実施
買い手にとって、表明保証の内容を確認するためのデューデリジェンス（精査）は非常に重要です。これにより、潜在的なリスクを特定し、契約内容に反映させることができます。
4-2. 売り手の対応策
売り手は、保証する内容を慎重に選定し、不必要なリスクを回避するための条項を交渉することが重要です。また、保険を活用してリスクを分散させる方法もあります。
4-3. 弁護士の関与
表明保証は法律的な専門知識を必要とするため、契約の作成や交渉には弁護士の関与が不可欠です。専門家の助言を受けることで、リスクを最小限に抑えることができます。
5. 表明保証と保証保険の活用
5-1. 保証保険とは
保証保険は、表明保証に関するリスクを保険会社に移転するための手段です。これにより、買い手と売り手の双方が安心して取引を進めることができます。
5-2. 保証保険のメリット
- **買い手**：万が一の損害に備えることができる。
- **売り手**：補償リスクを軽減し、交渉をスムーズに進められる。
6. まとめ
表明保証は、M&A契約においてリスク管理の要となる重要な条項です。売り手と買い手の双方がその意義を正しく理解し、適切な内容を契約に盛り込むことが成功の鍵となります。また、保証保険を活用することで、より安心感のある取引を実現できます。
