ニュースや医療系の記事などでよく目にする「罹患者」という言葉。なんとなく理解しているつもりでも、正確な意味や「患者」との違いを説明できる人は意外と少ないかもしれません。この記事では、「罹患者」とは何か、その正しい意味や使い方をわかりやすく解説します。

1. 罹患者とは何か?

1-1. 「罹患」という言葉の意味

「罹患(りかん)」という言葉は、医学的あるいは公衆衛生の分野でよく使用されます。漢字の意味を分解すると、「罹」は「こうむる」「わずらう」という意味を持ち、「患」は「病気」や「悩み」を意味します。つまり、「罹患」とは、ある病気に実際にかかることを指します。

この言葉は専門的な場面で使用されることが多く、たとえば疫学調査や感染症対策、がん登録などにおいて、「罹患率」「罹患数」などといった形で使われます。

1-2. 「罹患者」とは

「罹患者」とは、特定の病気に実際にかかった人を意味する言葉です。病気の種類を特定して用いられることが多く、「インフルエンザの罹患者」「新型コロナウイルスの罹患者」などと表現されます。

これは、病気にかかっている事実が確認された人に限定して用いる語で、医療や行政のデータ分析、報道記事などで頻繁に使われています。

2. 「罹患者」と「患者」の違い

2-1. 用語としてのニュアンスの違い

一見すると「罹患者」も「患者」も、病気の人という意味で似たような言葉に見えます。しかし、使い方には明確な違いがあります。

「患者」は病気やけがで医療機関に通院・入院している人を広く指す言葉です。病気の種類を問わず、治療中・観察中のすべての人が対象になります。風邪でクリニックに行く人も、がんで長期入院している人も、すべて「患者」です。

一方、「罹患者」はある特定の病気にかかった人に限定されます。特に、感染症や重篤な疾患など、発生件数や罹患率が重視される病気について使われます。

2-2. 実際の使われ方

たとえば、以下のような表現が見られます。

「今年のインフルエンザ罹患者数は例年の1.5倍に達した」
「新型コロナウイルス罹患者の年齢別割合が発表された」
「胃がんの罹患率は年齢とともに上昇する傾向がある」
このように、「罹患者」は統計的な記録や調査の対象として使われることが多く、一般的な会話や診察場面では「患者」が使われる傾向があります。

3. 医療・疫学における「罹患者」の重要性

3-1. 疫学的なデータ収集の対象

公衆衛生の分野では、罹患者の数を正確に把握することが非常に重要です。罹患者数が多ければ、それだけ病気の拡大や深刻化のリスクが高まることを意味します。

たとえば、厚生労働省はインフルエンザや感染性胃腸炎などの罹患者数を週ごとに発表しています。このデータは、予防策の強化やワクチン接種の推進、医療体制の整備など、さまざまな行政施策の基盤となっています。

3-2. 罹患率・有病率との違い

似たような指標に「有病率」や「発症率」があります。

罹患率:一定期間内に新たに病気にかかった人の割合。例:1年間で1000人中50人がかかれば、罹患率は5%。
有病率:ある時点で病気を持っている人の割合。例:慢性的な糖尿病など。
発症率:感染後に症状が出る割合。感染者全員が罹患者になるとは限らない。
罹患者という言葉は、こうした指標の基本単位として用いられるため、非常に重要な概念です。

4. 行政・医療現場での使われ方

4-1. 厚生労働省や自治体の統計用語

厚生労働省では、「がん罹患数」「感染症罹患動向」などの形で毎年データを公開しています。これにより、病気の流行傾向や医療費の見通し、地域医療のニーズなどを把握することができます。

また、自治体レベルでも「保健所管内での罹患者数」などが地域住民に向けて発表されており、感染症の流行状況を可視化するための基礎情報として活用されています。

4-2. 医療機関・研究機関での使い分け

病院では「患者」という表現が日常的に使われますが、研究論文や調査報告書では「罹患者」という表現が多く使われます。たとえば、がん研究センターが発表するデータでは、「罹患数」や「罹患率」という用語が使われ、地域差や年齢別の傾向を分析しています。

研究者は「罹患者数」から発症リスクや要因を解析し、予防医療や早期発見の重要性を訴えています。

5. 日常生活での使い方と注意点

5-1. 正しく使うためのポイント

「罹患者」は専門用語に近いため、一般的な会話や書き言葉では「患者」のほうが自然です。しかし、ニュース記事や公的文書を読む際に「罹患者」という言葉の意味を知っていれば、情報をより正確に理解できます。

たとえば、「○○の罹患者が急増」と報道された場合、それは「その病気にかかっている人」が急激に増えていることを意味します。

5-2. 誤用に注意

「罹患者」という言葉は、すでに病気にかかっている人だけを指します。以下のような場面では使い方に注意が必要です。

予備軍や濃厚接触者は「罹患者」ではない
完治した人や寛解状態の人も「罹患者」ではない
感染の可能性があるだけで未発症の人も含めない
文脈に応じて、正確に言葉を選ぶことが大切です。

6. まとめ

「罹患者」とは、特定の病気にかかっていることが確認された人を指す言葉であり、「患者」とは異なる文脈や目的で使用されることが多くあります。特に、感染症や慢性疾患の統計分析、医療政策立案などにおいては、「罹患者」の数や傾向が重要な指標となります。

この言葉の意味や使い方を理解しておけば、日常のニュースや行政発表をより深く読み解くことができるようになります。今後は「罹患者」という言葉を見かけたときに、背景や意図を意識して理解できるようになるでしょう。

おすすめの記事