「戯曲(ぎきょく)」という言葉を聞いたことがあっても、具体的にどういうものか分からない人も多いのではないでしょうか。この記事では、戯曲の基本的な意味から、小説や脚本との違い、構成の特徴、そして書き方まで、初学者にもわかりやすく解説します。

1. 戯曲とは何か?基本的な意味と定義

1.1 辞書的な定義

戯曲とは、舞台で演じられることを前提として書かれた文学作品を指します。英語では「play」、フランス語では「pièce de théâtre」と表現され、演劇の台本そのものが文学作品として成立している形態です。
日本語では「戯(たわむ)れる」という字が使われていますが、現代では「演劇用の脚本」という意味で理解されることが一般的です。

1.2 戯曲の成立背景

戯曲は古代ギリシャの演劇にその起源を持ちます。アリストテレスが『詩学』で悲劇や喜劇の構造を分析して以来、文学ジャンルとして確立され、シェイクスピアやモリエール、チェーホフなどの名作家によって広まりました。日本でも近代以降、坪内逍遥や岸田國士などによって戯曲が文学として評価されるようになりました。

2. 戯曲の特徴と構造

2.1 会話で構成される文学

戯曲の最大の特徴は、**会話(セリフ)を中心に物語が進行する**ことです。小説のような情景描写や心情説明はほとんどなく、登場人物の言葉と動きのみでドラマが構成されます。そのため、読者(あるいは観客)は、登場人物の発言から状況や感情を読み取る必要があります。

2.2 舞台演出を前提としている

戯曲は読むだけでなく、「演じられること」を前提に書かれている点が大きな特徴です。登場人物の動き、表情、照明、舞台転換など、演出と密接に関係しています。このため、ト書き(ナレーション的な指示文)が重要な役割を果たします。

2.3 三幕構成が基本

伝統的な戯曲は三幕構成を基礎にしています。
第1幕:導入(登場人物や状況の説明)
第2幕:対立・葛藤の展開
第3幕:クライマックスと解決
この構成は現代の映画やドラマの脚本にも大きな影響を与えており、物語構造を考える上で非常に有効です。

3. 戯曲と小説・脚本の違い

3.1 小説との違い

小説は、語り手による説明や内面描写を通じて物語を展開させる文学です。一方、戯曲はあくまで会話と動きだけで物語を伝えるため、読者や観客に想像させる余白が多く残されています。
小説では「彼は怒っていた」と書けますが、戯曲では「(怒りながら)何を言っているんだ、それは嘘だ!」というようにセリフとト書きで表現する必要があります。

3.2 映像脚本との違い

映画やテレビドラマの脚本は、戯曲と似ているようで異なる要素もあります。戯曲は基本的に舞台という制約のある空間で演じられるため、場面転換や演出に限界がありますが、映像脚本は編集やCGなどによって視覚的に自由度が高いです。
また、映像脚本はシーンごとのカット割りやカメラの動きも細かく記述されますが、戯曲では演出家や俳優に解釈が委ねられる部分が多いです。

4. 戯曲のジャンルとテーマ

4.1 悲劇と喜劇

古代から現代に至るまで、戯曲は大きく「悲劇」と「喜劇」に分類されます。
悲劇:人間の運命、苦悩、死を扱い、深い感情を呼び起こす。例:『ハムレット』
喜劇:ユーモアや風刺を通じて社会や人間を描く。例:『十二夜』
両者を組み合わせた「悲喜劇」という形式も多く、現代劇ではジャンルの境界が曖昧になってきています。

4.2 現代の戯曲テーマ

現代の戯曲では、家族問題、社会問題、政治風刺、ジェンダー、アイデンティティなど、非常に幅広いテーマが取り上げられています。寺山修司、野田秀樹、三谷幸喜などの作家は、独自の視点で現代社会を鋭く切り取り、戯曲という形で表現しています。

5. 戯曲の書き方:初心者向けガイド

5.1 登場人物を明確に設定する

まずは誰が登場するのかを明確にし、性格や背景を設定します。戯曲はセリフでしか人物を描けないため、個性を際立たせることが重要です。

5.2 シーン構成を考える

舞台はシーンの積み重ねで構成されます。各シーンで「何が起こるか」「どんな感情の変化があるか」を事前に考えておくことで、無駄のない構成になります。

5.3 セリフの言葉選びに注意する

戯曲ではセリフが命です。登場人物の立場や性格に応じた言葉遣いにすることで、リアリティと説得力が生まれます。また、実際に声に出して読み上げながら執筆すると、舞台での響きやリズムを確認できます。

5.4 ト書きの使い方

ト書きは、舞台上の動きや登場人物の感情を説明するために使われます。ただし、多用しすぎると演出の自由を奪ってしまうため、必要最低限に留めましょう。

6. 戯曲に触れるメリットと楽しみ方

6.1 読む楽しさ

戯曲は読むだけでも楽しめます。セリフのやり取りから人間模様が浮かび上がり、読む人の想像力を刺激します。小説のような長大な描写がない分、テンポよく物語が進行するのも魅力です。

6.2 上演を見る体験

戯曲の真骨頂は、やはり舞台での上演です。生身の俳優が演じるセリフや表情、舞台美術や音響など、五感で味わうことで作品の世界観が立体的に伝わってきます。同じ戯曲でも演出によってまったく異なる表現になるのも、演劇ならではの面白さです。

6.3 自分で書くことの魅力

戯曲を書くことは、自分の内面を言葉と動きで表現する行為でもあります。日常では言葉にできない感情や疑問を、登場人物に託して語らせることで、新たな気づきや創造の喜びが得られます。

7. まとめ:戯曲は言葉と想像力の演劇的表現

戯曲とは、演じられることを前提とした文学であり、セリフと舞台上の動きで物語を描く独特な表現形式です。小説や映画脚本と異なり、読み手や観客の想像力を大いに刺激します。戯曲を読む、観る、書くことで、言葉の力や人間の感情に対する理解が深まり、日常のコミュニケーションにも活かせる発見があるでしょう。

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