「既遂(きすい)」という言葉は、法律の分野、特に刑法で頻繁に登場する専門用語です。しかし、一般の方には馴染みが薄く、ニュースや法律関係の記事で目にしても意味がつかみにくいことがあります。本記事では、「既遂とは何か?」という基本から、未遂との違いや刑事責任との関係まで、わかりやすく解説していきます。

1. 既遂とはどういう意味か?

1.1 「既遂」の定義

「既遂」とは、法律上の用語で、ある犯罪行為がすべて実行され、法律上の構成要件を満たした状態を指します。簡単に言えば、「犯罪が完了した状態」のことです。刑法においては、犯罪の成立要件の一つとして「既遂」であることが必要とされます。

1.2 「既遂」と「未遂」の違い

「未遂」は犯罪の実行に着手したものの、何らかの理由で犯罪が未完成のまま終わった状態を指します。一方、「既遂」は犯罪行為が結果まで達成された状態です。たとえば、「殺人未遂」は殺そうとして失敗した場合であり、「殺人既遂」は実際に殺害してしまった場合です。

2. 刑法における既遂の意味

2.1 構成要件の充足

刑法における「既遂」とは、犯罪の構成要件(法により定義された要件)がすべて満たされた場合を指します。たとえば、窃盗罪であれば「他人の物をこっそり盗む」という要件がすべて実現された時点で既遂になります。

2.2 犯罪成立の三要素

刑法では、犯罪が成立するためには次の三つの要素が必要です。

構成要件に該当する行為

違法性(正当防衛などがないこと)

有責性(責任を問える状況であること)

このうち「構成要件の該当」が「既遂」であるかどうかに関わってきます。

3. 具体的な既遂の例

3.1 殺人罪における既遂

殺人罪においては、「人の命を奪う」ことが構成要件です。したがって、実際に人を死亡させた場合、それは既遂とされます。計画だけでは未遂にもならず、実際に実行に着手して命を奪ってはじめて既遂になります。

3.2 窃盗罪における既遂

窃盗罪では、他人の財物を自己の占有下に移すことで既遂となります。たとえば、財布をポケットに入れた時点で既遂になります。手に取っただけでは未遂にとどまることがあります。

3.3 放火罪における既遂

放火罪の場合、建物などが実際に燃え始めると既遂になります。火をつけようとしても燃えなかった場合は未遂です。燃えたかどうかが既遂・未遂を分ける大きなポイントになります。

4. 未遂との処罰の違い

4.1 刑の重さの違い

多くの場合、未遂よりも既遂の方が重い刑罰が科されます。これは、実際に被害が発生していることが理由です。たとえば殺人未遂より殺人既遂の方が量刑は重くなる傾向があります。

4.2 未遂が処罰される根拠

未遂でも刑法は処罰を可能にしています。刑法第43条には、「犯罪の実行に着手した者が、これを遂げなかったときでも、罰する」と明記されています。これは社会的危険性が高いためです。

4.3 中止未遂との違い

中止未遂とは、自発的に犯罪の遂行をやめた場合を指し、通常の未遂よりも軽く扱われる可能性があります。一方、既遂は一度成立すると、たとえ自首しても責任は免れません。

5. 既遂が争点となる裁判例

5.1 結果の有無が争点となる事件

実際に被害が生じたかどうかが不明瞭な事件では、「既遂」か「未遂」かが争点となります。たとえば、毒を盛ったが相手が気づいて飲まなかった場合、「殺人未遂」となるか「準備罪」にとどまるかが争われます。

5.2 故意の有無との関係

「既遂」となるためには、故意(わざと)があったことも重要です。過失によって構成要件が満たされた場合は、「過失致死」など別の罪が適用されることになります。

6. 既遂に関するよくある誤解

6.1 「既遂」は単なる完了ではない

「既遂」という言葉だけを見ると、「終わった」という意味に感じられますが、法律上は「構成要件を満たして初めて成立する犯罪状態」を指します。単に計画が完了しただけでは既遂ではありません。

6.2 結果が小さくても既遂になることがある

たとえば、盗んだ物が100円のガムでも、他人の所有物である以上、既遂の窃盗罪が成立します。被害の大きさは量刑に影響するものの、既遂の成否には関係しません。

6.3 成立後の行動は既遂か未遂かに影響しない

既遂が成立した後で自首したり被害を弁償したとしても、既遂状態は取り消されません。ただし、その後の行動は情状として刑の軽減に繋がることがあります。

7. まとめ:既遂とは犯罪の成立が認定された状態

「既遂」とは、犯罪が法律上の構成要件をすべて満たし、刑法上の責任が発生する状態のことを指します。未遂や準備段階とは明確に区別され、処罰の重さにも違いがあります。正しく理解しておくことで、ニュースや法律関連の情報をより正確に把握することができます。法的な用語としての「既遂」は、日常の感覚とはやや異なる点が多いため、しっかりと学んでおくことが大切です。

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