「思し召し」とは、主に目上の人や天皇などの高位の方が何かを望む意志を指す敬語表現です。古典やビジネス文書、歌舞伎の台詞などで見かけることがあります。この記事では、語源や具体的な使い方、現代語との違いを解説します。
1. 思し召しの基本的な意味
「思し召し(おぼしめし)」は、主に目上の人や権威ある立場の人が心に思い描き、実行したいと考えていることを指す敬語的な表現です。たとえば、天皇や皇族がある行為をしたいと思われる意志を示す際に「天皇の思し召し」などと用います。「思し」は「思う」の尊敬語、「召し」は「召す=お呼びになる」の尊敬語で構成され、高い敬意を込めた言い回しです。
1.1 敬意を示す構造
「思し召し」は「思ふ(おもふ)」と「召す(めす)」の尊敬形を合わせた言葉です。「思ふ」は平安時代から使われ、「~し思し召す」で「思いを巡らされる」という意味になります。主に天皇や貴人に使われたため、格式が非常に高い表現とされています。
2. 歴史的背景と語源
「思し召し」は平安時代の公家社会や寺社の文書などで使われました。天皇や上皇の意思を伝える正式な文章に頻出し、たとえば「天皇思し召しのままに」といった表現で、「天皇がそうお考えになっている状態」を記録しました。中世以降も公家の儀式や書状で用いられ、江戸時代には幕府と朝廷とのやり取りで重要な意味を持ち続けました。
2.1 古典文学での用例
『源氏物語』や『枕草子』などの宮廷文学には、天皇や上皇の心情を表す場面で「思し召し」という言葉が登場します。作者は「〜とおぼしめしける」と動詞の終止形に続けて用い、敬意を表すと同時に登場人物の心情を丁寧に描写しました。
3. 現代における使い方
現代では日常会話では使われませんが、ビジネス文書や公式文書の中で、役員や社長など目上の意思を伝える場合に「思し召し」を使うことがあります。また、歌舞伎や能楽など伝統芸能の台本でも古風な響きを演出するために登場します。
3.1 ビジネス文書での例
「部長の思し召しにより、当プロジェクトの方針を改訂いたしました」という文は、「部長がご判断された」という意味です。同じ内容を「部長のご判断により…」と言い換えることも可能ですが、「思し召し」を使うことで格式を感じさせます。
3.2 伝統芸能の台本での例
歌舞伎や能楽の台詞で「院の思し召し」と言えば、「上皇がお思いになった」という意味になり、登場人物がその尊い意思に従う流れを示します。古典の雰囲気をそのまま残した演出が可能です。
4. 類義表現と使い分け
「思し召し」に近い意味を持つ言葉には「ご意向」「ご判断」「お心づもり」などがありますが、敬意や格式の度合いが異なります。
4.1 ご意向(ごいこう)
「ご意向」は「思し召し」と同じく目上の意思を指しますが、やや現代的で柔らかい印象です。ビジネスシーンで上司の要望を表す際には「部長のご意向に沿って…」のように使われます。
4.2 ご判断(ごはんだん)
「ご判断」は意思決定に伴う決断を表す言葉です。「思し召し」が意思そのものに焦点を当てるのに対し、「ご判断」は決定行為を強調します。役員会の決定を述べる際などに使われます。
4.3 お心づもり(おこころづもり)
「お心づもり」は「心に思い描いていること」を指し、思し召しよりも個人的・内面的なニュアンスが強い言葉です。相手の配慮や気遣いを表現する場面で使われます。
5. 使う際の注意点
「思し召し」は格式が非常に高い表現であるため、使う相手や場面を誤ると不自然になります。以下の点に注意して使いましょう。
5.1 対象の敬意に応じる
天皇や上皇、社長・会長など最高位の意思を示す場合に適します。部下同士やフラットな関係では「思し召し」は過剰になるため、「ご意向」や「ご判断」に言い換えます。
5.2 文章全体の敬語レベルを保つ
「思し召し」を使う場合、他の部分も高い敬語表現で統一しないと浮いてしまいます。文全体を丁寧語・尊敬語で構築し、整合性を保つことが重要です。
6. まとめ
思し召し
とは、天皇・上皇や目上の人が心に思う意志を示す敬語表現です。平安時代の宮廷文学を起源とし、現代でもビジネス文書や伝統芸能で使われます。類義語に「ご意向」「ご判断」「お心づもり」がありますが、それぞれ敬意の度合いやニュアンスが異なります。使う場面では対象の位や関係性に応じて、適切な言い換えを選びましょう。