「聾唖(ろうあ)」という言葉は、かつて医学的・法律的な文脈で使われていた表現です。しかし、現在では差別的・時代遅れとされる表現として使われなくなっており、代わりに「聴覚障害者」や「ろう者」という言葉が一般的に使われています。この記事では、「聾唖」の本来の意味と由来、歴史的背景、そして現代における適切な言い換え表現について解説します。

1. 「聾唖」の読み方と意味

読み方: ろうあ(roua)

「聾唖」とは、もともと耳が聞こえず(聾)、さらに言葉を発することができない(唖)人を指す言葉です。つまり、「聴覚に障害があり、言葉での会話が困難な人」を意味していました。

  • 「聾」= 耳が聞こえない(ろう)
  • 「唖」= 声を発することができない(あ)

これらを合わせて、「聾唖(ろうあ)」=「聞こえず、話せない人」という意味になります。

例文(かつての用法):

  • 彼は生まれつきの聾唖である。
  • 聾唖学校(現在のろう学校)で手話を学ぶ。

ただし、これらの表現は現代では不適切・差別的とされており、使用が避けられています。

2. 「聾唖」という言葉の歴史的背景

「聾唖」という語は、中国の古い医学書や法律用語に由来し、日本でも明治時代以降に医学的・行政的な表現として使われてきました。

当時は「聾唖学校」「盲唖院」などの名称が公的に使われていましたが、1960年代以降、「唖(あ)」という字が「言葉を話せない=劣っている」と誤解されやすいとして問題視されるようになりました。

そのため、1979年(昭和54年)以降、教育機関の名称も「聾学校」や「ろう学校」などに改められています。

3. 現代では「聾唖」は使われない理由

現代では「聾唖」という言葉は差別的・侮蔑的と受け取られるおそれがあるため、行政・教育・報道などの公式な場では使われていません。

主な理由は以下の通りです。

  • 「唖(あ)」という字に「言葉を失った人」という消極的なイメージがある。
  • 多くの聴覚障害者は手話や口話で十分にコミュニケーションを取ることができ、「話せない人」ではない。
  • 「聾唖」という表現が「能力の欠如」を強調しており、当事者の尊厳を損なうおそれがある。

こうした理由から、現在では次のような言い換え表現が用いられています。

4. 現代の適切な表現(言い換え)

旧表現 現代的な言い換え 意味・補足
聾唖(ろうあ) 聴覚障害者 聴覚に障害のある人を指す最も一般的・中立的な表現
聾者(ろうしゃ) ろう者 手話を主な言語として使う人(当事者団体などで使用)
聾唖学校 ろう学校 聴覚障害のある子どもが学ぶ特別支援学校

特に当事者の中では、「聴覚障害者」は医学的・行政的な言い方であり、「ろう者」は文化的・社会的なアイデンティティを持つ表現として好まれます。

5. 「ろう者」と「聴覚障害者」の違い

「ろう者」と「聴覚障害者」は似ていますが、文脈によって意味が異なります。

用語 主な意味 特徴
聴覚障害者 聴覚に障害がある人(医学的・行政的表現) 軽度・中度・重度の難聴を含む広い範囲
ろう者 主に音声による会話が難しく、手話を第一言語とする人 ろう文化を尊重し、社会運動的な意味を持つこともある

つまり、「聾唖」という旧来の言葉は、現在の「ろう者」「聴覚障害者」というより正確で尊重を込めた言葉に置き換えられています。

6. 英語での「聾唖」表現

英語では「聾唖」に直接対応する言葉はありませんが、文脈によって次のように訳されます。

英語表現 意味 例文
Deaf person 耳が聞こえない人(中立的表現) He is a Deaf person who communicates in sign language.(彼は手話で会話をするろう者だ)
Deaf and hard of hearing 聴覚に障害のある人全般 Services are available for Deaf and hard of hearing people.(聴覚障害者向けの支援が利用できる)
person with a hearing impairment 聴覚に障害のある人(公式・医療用語) He works with people with hearing impairments.(彼は聴覚障害者の支援に携わっている)

7. まとめ:現代では「聾唖」ではなく「聴覚障害者」または「ろう者」を使う

「聾唖(ろうあ)」とは、本来「耳が聞こえず、言葉を発しにくい人」を指す言葉でしたが、現代では差別的表現とされるため使用されていません。

代わりに、「聴覚障害者」や「ろう者」といった尊重ある言葉が使われています。特に「ろう者」は、手話を言語として使い、独自の文化を大切にする人々を表すポジティブな表現です。

言葉は時代とともに変わります。相手の尊厳を守り、正確で配慮のある言葉を選ぶことが、真の理解と共生への第一歩といえるでしょう。

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