「志向」という言葉は、ビジネスや心理学、教育など幅広い分野で使われていますが、「思考」や「嗜好」と混同されることも少なくありません。この記事では、「志向」の正しい意味や使い方、類似語との違い、そして具体例までをわかりやすく解説します。
1. 志向とは何か
1-1. 志向の基本的な意味
「志向(しこう)」とは、「ある目標や方向に心や意志を向けること」を意味します。つまり、「何を目指しているか」「どんな方向に進もうとしているか」という“意志のベクトル”を表す言葉です。
漢字の「志」には「こころざし」や「意志」、「向」には「むかう」という意味があり、「志向」は「意志をもって特定の方向へ向かうこと」と解釈できます。
1-2. 現代における志向のニュアンス
現代では、「~志向」として複合語の形でよく使われます。たとえば「上昇志向」「現実志向」「結果志向」「安全志向」などが代表的です。これらは「どのような方向を目指すか」「どんな価値観を重視するか」を示す言葉として用いられます。
2. 志向の使い方と例文
2-1. ビジネスでの使い方
ビジネス分野では、「志向」は人や組織の価値観・目標設定を表す際に使われます。
例文:
・彼は強い成果志向を持つリーダーだ。
・当社はお客様本位のサービス志向を掲げている。
・チーム全体が成長志向を持って取り組んでいる。
このように、「志向」は個人の性格や組織の方針を示すキーワードとして重要な役割を果たします。
2-2. 心理学・哲学での使い方
心理学や哲学の分野では、「志向性(しこうせい)」という専門用語として使われます。これは、人間の意識が常に何かに向かって働く性質を指す言葉です。
例文:
・意識には常に志向性があり、何かを「思う」「感じる」対象が存在する。
・彼の行動には明確な目標志向が見られる。
ここでの「志向」は、単なる考えではなく、目的や方向性をもった意識の動きを意味します。
2-3. 日常生活での使い方
日常会話でも「志向」は使われますが、ややフォーマルで知的な印象を与える言葉です。
例文:
・彼女は健康志向が強く、毎朝ランニングを欠かさない。
・最近はミニマリズム志向の若者が増えている。
・安定志向よりも挑戦志向の人が評価される時代になった。
このように、「志向」はその人の価値観やライフスタイルを表す言葉として使うことができます。
3. 志向と似た言葉との違い
3-1. 「思考」との違い
「志向」と混同されやすいのが「思考(しこう)」です。
「思考」は「物事を考えること」「思索すること」を意味し、頭の中のプロセスを指します。一方、「志向」は「考えの方向性」や「意志の向かう先」を表します。
例:
・彼は論理的な思考をする(=考える力がある)
・彼は結果志向の考え方をする(=目標達成を重視する)
つまり、「思考」は“考える行為そのもの”、“志向”は“考えが向かう方向”を指すという違いがあります。
3-2. 「嗜好」との違い
「嗜好(しこう)」は、「好み」「趣味」「好きな傾向」を意味します。
たとえば、「甘いもの嗜好」「音楽嗜好」「映画嗜好」など、個人の好みを表す際に使われます。
一方、「志向」は「意志的な方向性」を示すため、感情よりも目的意識が強い点が異なります。
例:
・健康嗜好(=健康的なものが好き)
・健康志向(=健康を意識して生活している)
このように、「嗜好」は“好き嫌い”、「志向」は“目指す方向”という違いがあります。
3-3. 「志望」との違い
「志望」は「志して望む」と書くように、「特定の職業や学校などを目指す」という意味です。
例:
・志望校に合格した。
・彼は医師を志望している。
一方、「志向」はもっと広い概念で、「価値観の方向性」や「生き方の姿勢」を表します。
つまり、「志望」は具体的な目標、「志向」は抽象的な方向性を指す言葉です。
4. 志向を含む代表的な言葉
4-1. 上昇志向
「上昇志向」とは、「より高い地位・成功・能力を目指す意欲」を指します。
例文:
・上昇志向が強い人ほど、失敗を恐れずに挑戦する。
4-2. 結果志向
「結果志向」は、「過程よりも成果を重視する考え方」を意味します。
例文:
・結果志向の評価制度が導入された。
4-3. 安全志向
「安全志向」は、「リスクを避け、安定を求める傾向」を指します。
例文:
・不況の影響で、安全志向の消費が増えている。
4-4. 成長志向
「成長志向」とは、「自分の能力や組織を向上させようとする意識」を意味します。
例文:
・成長志向の社員を支援する研修制度が整備されている。
5. 志向を使うときの注意点
5-1. 抽象的な言葉であること
「志向」は抽象的な概念を表すため、使う際は具体的な対象を明示することが大切です。
「~志向の人」「~志向の社会」など、何を目指すのかを明確にすることで意味が伝わりやすくなります。
5-2. ポジティブ・ネガティブどちらにも使える
「志向」は良い意味にも悪い意味にも使えます。
・消費志向(物質的な傾向)
・拝金志向(お金を最優先にする考え)
・環境志向(自然を大切にする価値観)
このように、方向性によって印象が大きく変わるため、文脈に合わせた使い方が重要です。
5-3. 「志向的」という形容詞としても使える
「志向的」という形で、「特定の方向を目指す性質がある」という意味でも使われます。
例文:
・彼の考え方は非常に目標志向的だ。
・志向的リーダーシップは組織文化を変える力を持つ。
6. 志向という言葉の文化的背景
6-1. 日本語における「志」の重み
日本語における「志」は、単なる意志や希望ではなく、「自分の生き方や使命」を意味します。そのため、「志向」は「どのように生きたいか」「どんな価値を大切にしたいか」という人生観に関わる深い言葉でもあります。
6-2. 現代社会での志向の多様化
現代では、働き方や価値観の多様化により、「安定志向」「挑戦志向」「ワークライフバランス志向」など、個々の方向性が多様になっています。これは社会全体の成熟を示す現象とも言えます。
7. まとめ
「志向」とは、ある方向に意志や関心を向けることを意味する言葉です。「思考」や「嗜好」と異なり、感情よりも目的意識や方向性を重視します。ビジネスから哲学、日常生活まで幅広く使われ、個人や社会の価値観を表す重要な語です。
自分の「志向」を理解することは、自分が何を求め、どの方向に進もうとしているのかを知る第一歩でもあります。