「膿瘍(のうよう)」は、体内の感染や炎症によって生じる膿のかたまりを指す医学用語である。一般の人にはあまり馴染みのない言葉だが、皮膚や内臓など体のさまざまな場所で発生する可能性がある。本記事では、膿瘍の基本的な意味、発生メカニズム、症状、診断方法、治療法、予防のポイントまでをわかりやすく解説する。

1. 膿瘍とは何か

1-1. 基本的な意味

膿瘍とは、体内の組織に細菌感染や炎症が起こることによって形成される、膿(白血球や死んだ組織、細菌などを含む液体)のかたまりである。一般に「膿がたまった袋状のもの」を指し、感染部位によって皮膚表面や内部臓器で発生する。
膿瘍は、単なる皮膚の吹き出物や軽い傷とは異なり、免疫反応によって組織内に膿が閉じ込められることが特徴である。このため、放置すると感染が拡大したり、全身に影響を及ぼすこともある。

1-2. 膿と膿瘍の違い

膿は感染や炎症によって生じる液体そのものを指すが、膿瘍はその膿が組織内に局所的に溜まり、包まれた状態を指す。膿瘍は炎症の結果として形成される「膿の袋」と考えるとわかりやすい。

1-3. 皮膚膿瘍と内臓膿瘍

膿瘍は発生場所によって大きく分類できる。
皮膚膿瘍:皮膚や皮下組織に発生する膿瘍。ニキビや毛嚢炎が進行して形成されることもある。
内臓膿瘍:肝臓、腎臓、肺、脳など内部の臓器に発生する膿瘍。皮膚膿瘍に比べて症状が見えにくく、診断・治療が難しい場合がある。

2. 膿瘍の原因

2-1. 細菌感染

膿瘍の最も一般的な原因は、細菌感染である。ブドウ球菌、連鎖球菌、大腸菌などが皮膚や内部臓器に侵入し、免疫反応が局所で膿を作る。傷口や手術部位、虫刺されなどが感染の入口となることが多い。

2-2. 慢性的な炎症

糖尿病や免疫力低下など、慢性的な炎症を起こしやすい体質の場合、膿瘍が形成されやすくなる。特に皮膚の毛穴や汗腺の炎症が慢性化すると、膿瘍に発展することがある。

2-3. 内部臓器での膿瘍形成

肝膿瘍や腎膿瘍、脳膿瘍などは、血流感染や隣接臓器からの感染拡大によって生じる。例えば胆管炎や虫垂炎から肝臓に膿瘍が形成されることもある。

3. 膿瘍の症状

3-1. 皮膚膿瘍の症状

皮膚にできる膿瘍では、以下の症状がみられる。
発赤、腫れ、熱感
強い痛みや圧痛
膿が溜まった部分の盛り上がり
周囲の皮膚が膨らむ
膿瘍が破裂すると膿が出て痛みは軽減することがあるが、感染が広がるリスクがあるため注意が必要である。

3-2. 内臓膿瘍の症状

内部臓器の膿瘍では症状が非特異的であることが多い。
発熱、倦怠感
吐き気や食欲不振
腹痛や局所の圧痛
黄疸(肝膿瘍の場合)
頭痛、意識障害(脳膿瘍の場合)
症状が軽度の場合、自己判断で放置すると感染が悪化する可能性がある。

3-3. 全身症状

膿瘍が重篤化すると、敗血症や全身感染症を引き起こすことがある。
高熱や寒気
心拍数上昇、血圧低下
意識障害
特に内臓膿瘍では発見が遅れやすいため、体調不良が長引く場合は早めの診察が重要である。

4. 膿瘍の診断方法

4-1. 身体診察

皮膚膿瘍では、赤みや腫れ、熱感を触診で確認する。痛みや膿の有無を診ることで、膿瘍の存在をある程度判断できる。

4-2. 画像診断

内部臓器の膿瘍では、画像診断が必須となる。主な方法は以下の通り。
超音波検査(US)
CTスキャン
MRI
これらの画像診断により、膿瘍の大きさ、場所、周囲組織との関係を把握できる。

4-3. 血液検査・培養検査

膿瘍の原因菌を特定するため、血液検査や膿の培養検査が行われる。特に抗生物質による治療方針を決めるうえで重要である。

5. 膿瘍の治療法

5-1. ドレナージ(膿の排出)

膿瘍治療の基本は、膿を体外に出すことである。皮膚膿瘍では切開・排膿が行われ、内部臓器の場合はドレナージチューブを用いた排膿が行われることもある。

5-2. 抗菌薬治療

細菌感染が原因の場合、抗生物質を使用する。軽度の膿瘍では抗菌薬のみで治癒することもあるが、多くの場合、排膿と併用することで効果が高まる。

5-3. 外科的治療が必要なケース

膿瘍が大きい、再発を繰り返す、または内部臓器にある場合は外科的手術が必要になることがある。手術では膿瘍の切除や排膿、場合によっては感染源の除去も行われる。

6. 膿瘍の合併症・リスク

6-1. 再発のリスク

膿瘍は不完全な排膿や感染源の残存により再発することがある。再発を防ぐためには、抗生物質の適切な使用と生活環境の衛生管理が重要である。

6-2. 感染の拡大

膿瘍を放置すると、感染が周囲組織に拡大し、敗血症など重篤な全身感染症に発展するリスクがある。特に免疫力が低下している人は注意が必要である。

6-3. 臓器機能障害

内臓に膿瘍が生じた場合、臓器の機能が低下することがある。肝膿瘍では肝機能障害、腎膿瘍では腎不全、脳膿瘍では神経症状や意識障害を引き起こす可能性がある。

7. 膿瘍の予防と日常生活の注意点

7-1. 傷の衛生管理

皮膚膿瘍の予防には、傷や切り傷を清潔に保つことが基本である。手洗いの徹底、消毒、絆創膏の使用などで感染リスクを低減できる。

7-2. 生活習慣の改善

糖尿病や免疫力低下は膿瘍のリスクを高める。バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠により体の抵抗力を維持することが重要である。

7-3. 早期受診の重要性

膿瘍は早期発見・早期治療が重要である。皮膚の腫れや発熱、内部臓器の不調を感じたら、自己判断せずに医療機関で診察を受けることが推奨される。

8. まとめ

膿瘍とは、感染や炎症によって体内に形成される膿のかたまりであり、皮膚から内臓まで幅広い場所で発生する可能性がある。主な原因は細菌感染で、症状は腫れや痛み、発熱など多様である。診断には身体診察、画像診断、血液検査などが用いられ、治療は排膿、抗菌薬、場合によっては外科的処置が必要である。予防には傷の衛生管理や生活習慣の改善、早期受診が重要であり、適切な対応によって膿瘍は十分に治癒可能である。膿瘍を理解することは、感染症や炎症性疾患の早期発見・治療につながる。

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