「きびすを返す」とは、日常会話や文学作品などで耳にする表現ですが、その意味を正確に理解している人は少なくありません。この言葉は「すぐに引き返す」「方向を変える」といった動作を表す慣用句で、古くから使われてきた日本語です。この記事では、「きびすを返す」の意味・語源・使い方・類語・例文をわかりやすく解説します。

1. きびすを返すとは何か

1-1. 基本的な意味

「きびすを返す」とは、「かかとを回して反対の方向へ向かう」「すぐに立ち去る」という意味の慣用句です。つまり、身体の動きを表す表現から転じて、「その場を去る」「すぐに戻る」といった行動や態度を比喩的に表しています。

たとえば、「彼は何も言わずにきびすを返した」という場合、「言葉も交わさず、その場を去った」という情景を表しています。ここでの「返す」は「向きを変える」「反転する」という意味です。

1-2. 日常での使われ方

現代では「その場を立ち去る」「方向転換をする」際に比喩的な表現として使われます。 例文: ・彼女は怒ってきびすを返した。 ・上司の言葉に納得できず、きびすを返して部屋を出た。 ・彼は考えを改め、きびすを返して協力を申し出た。

このように、単なる物理的な動作だけでなく、心理的・態度的な変化を表す際にも使われます。

2. 「きびす」の意味と語源

2-1. 「きびす」とはどこの部分?

「きびす」とは、もともと「足のかかと」または「足首の後ろ側」を意味する古語です。現代語ではあまり使われませんが、古典文学や慣用句の中でその名残を残しています。

2-2. 語源と由来

「きびす」は漢字で「踵」と書きます。「踵(きびす)」という言葉は、日本語の古い表現であり、奈良時代や平安時代の文学作品にも登場します。たとえば『万葉集』や『源氏物語』などでも「踵を返す」という表現が使われており、古くから「進行方向を変える」動作を意味していました。

つまり、「きびすを返す」は「かかとを回して進行方向を変える」という身体動作から転じて、「考えを変える」「去る」といった抽象的な意味に広がっていったのです。

3. 「きびすを返す」の使い方

3-1. 会話や文章での使い方

「きびすを返す」は、主に書き言葉や少し改まった会話の中で使われます。日常会話では「踵を返す」や「振り返って去る」などの表現に置き換えられることもあります。

例文:
・説得に失敗し、彼はきびすを返して出ていった。
・敵がきびすを返して逃げていく。
・社長の言葉に一礼し、きびすを返した。

3-2. 心理的変化を表す比喩表現として

「きびすを返す」は、単に物理的に去るだけでなく、「態度を急に変える」「考えを改める」という意味でも用いられます。 例文: ・彼は非を認め、きびすを返して協力的になった。 ・反対していた彼女が、きびすを返して賛成した。

このように、「きびすを返す」は外的動作と内面的変化の両方を表現できる便利な言葉です。

4. 「きびすを返す」と似た表現

4-1. 「踵を返す」との違い

「きびすを返す」と「踵を返す」は、基本的に同じ意味を持ちます。どちらも「方向を変える」「立ち去る」という動作を指しますが、語感にわずかな違いがあります。

・「きびすを返す」:古風で文学的な響きがある。
・「踵を返す」:現代的で一般的な表現。

したがって、日常会話やビジネス文書では「踵を返す」が自然に使われますが、文学的な文章や感情を強調する場面では「きびすを返す」が好まれます。

4-2. その他の類語表現

・「立ち去る」:場所を離れることを意味する。 ・「去る」:その場を離れる、退く。 ・「背を向ける」:相手に対して拒絶や距離を取る動作。 ・「方向転換する」:考え方や進路を変えることを比喩的に表す。

これらの表現を状況によって使い分けることで、文章に深みを持たせることができます。

5. 「きびすを返す」の例文集

5-1. 行動に関する例文

・彼は一言も発せず、きびすを返して部屋を出た。 ・上司の怒鳴り声を聞き、きびすを返して逃げ出した。 ・雨が降り出したので、彼女はきびすを返して家に戻った。

5-2. 心情や変化に関する例文

・最初は反対していたが、彼はきびすを返して賛成した。 ・彼女は誤解を解き、きびすを返して笑顔を見せた。 ・非を悟った彼は、きびすを返して謝罪した。

これらの例文からも分かるように、「きびすを返す」は単なる動作だけでなく、感情や考え方の転換を象徴的に表現する言葉として使われています。

6. 「きびすを返す」の使いどころ

6-1. 文学的・感情的な場面で効果的

「きびすを返す」は、文学作品やスピーチなど、感情を込めた場面で使うと効果的です。言葉の響き自体に緊張感や決意のニュアンスがあり、登場人物の行動や心情を印象的に描写することができます。

6-2. 書き言葉としての使い方

ビジネスメールや報告書ではあまり使われませんが、小説・エッセイ・スピーチなどでは表現力を高める言葉として適しています。たとえば、 「彼は沈黙のままきびすを返した」 という一文を入れるだけで、情景描写に深みが加わります。

7. まとめ

「きびすを返す」とは、「かかとを回して方向を変える」ことから転じて、「その場を去る」「態度を変える」ことを意味する慣用句です。古風で文学的な響きを持ち、行動や心理の転換を象徴的に表現できます。

現代では「踵を返す」と言い換えることも多いですが、文体や場面によって使い分けると効果的です。特に文章表現で情感や決意を伝えたいときに、「きびすを返す」は非常に印象的な言葉として活用できます。

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