「万夫不当(ばんぷふとう)」という四字熟語を知っていますか?
日常ではあまり耳にしない言葉ですが、その響きには力強さと気高さが込められています。
古代中国に由来するこの言葉は、「一人で何万もの敵に立ち向かえるほどの強さ」を意味します。
この記事では、「万夫不当」の意味、語源、使い方、類語、そして現代における活用例を、わかりやすく丁寧に解説します。
1. 「万夫不当」とは?基本の意味
「万夫不当(ばんぷふとう)」とは、非常に勇敢で強く、何人もの敵を相手にしても恐れないほどの豪傑を表す四字熟語です。
字義を分解すると、以下のようになります。
万夫:一万人の兵、つまり多数の人々
不当:敵わない、かなわない
直訳すれば、「一万人の男にも敵わない」という意味になり、
転じて「一人で多くの敵を圧倒するほど強い」「非常に勇敢で力のある人」という意味になります。
現代風に言い換えるなら、
「圧倒的な実力者」「無敵の存在」「並外れた勇者」といった表現が近いでしょう。
2. 「万夫不当」の読み方と発音
「万夫不当」は、
ばんぷふとう と読みます。
読み方を間違いやすい点として、「まんぷふとう」と読まれることがありますが、正しくは「ばんぷふとう」です。
音読みの「ばん(万)」が正しいので注意しましょう。
3. 「万夫不当」の語源と由来
3.1 出典:『史記』からの由来
「万夫不当」という言葉は、中国の歴史書『史記(しき)』に由来します。 『史記・項羽本紀』には、楚の武将・項羽(こうう)の強さをたたえる記述としてこの語が登場します。
項羽は、中国の秦末の乱において、圧倒的な武勇を誇った英雄です。
その勇猛さは「一人で万の敵に立ち向かう」と評され、彼の強さを形容するために「万夫不当」という言葉が生まれました。
つまり、「万夫不当」は歴史上の人物・項羽を称える表現として誕生したのです。
3.2 「当たるに不当」の意味
この語の構造にある「不当」は、「当たるにあらず」つまり「かなわない」という意味です。 したがって「万夫不当」とは、「万の人が当たっても敵わない」ということを示します。
古代中国の武勇の象徴とされた項羽の強さが、この言葉の背景にあります。
4. 「万夫不当」の使い方と例文
4.1 英雄や勇者を称えるときに使う
「万夫不当」は、武勇や気概に優れた人物をたたえるときに使う表現です。 現代では比喩的に「誰にも負けない精神力や行動力を持つ人」という意味でも用いられます。
例文:
・戦国の武将・本多忠勝は、まさに万夫不当の勇士として知られている。
・彼の突破力とリーダーシップは、現代における万夫不当の精神といえる。
・どんな逆境にも立ち向かうその姿は、万夫不当の気概を感じさせる。
4.2 スポーツやビジネスにも応用できる
現代では、戦いや武勇に限らず、スポーツ選手や経営者などの強さや実行力をたたえる比喩としても使われます。
例文:
・彼の闘志と集中力は、まさに万夫不当。誰にも真似できない域に達している。
・厳しい市場の中でも勝ち続ける彼の姿は、万夫不当のリーダーそのものだ。
このように、「強さ」「不屈」「勇気」といったポジティブな意味で幅広く使える表現です。
5. 「万夫不当」の類語と対義語
5.1 類語
天下無双(てんかむそう):天下に並ぶ者がいないほど優れている。
一騎当千(いっきとうせん):一人で千人に匹敵する強さ。
無敵(むてき):敵がいないほど強い。
比類なき:比べるものがないほど優れている。
「一騎当千」と「万夫不当」は特に意味が近く、どちらも「圧倒的な力」を表しますが、
「万夫不当」はより古風で荘厳な響きを持っています。
5.2 対義語
意気地なし(いくじなし):勇気がなく、弱々しい人。
臆病(おくびょう):恐れて行動できないこと。
無力(むりょく):力がない、抵抗できない。
「万夫不当」が勇敢さの極みを表すのに対し、これらの言葉はその反対の性質を示します。
6. 「万夫不当」の英語表現
英語で「万夫不当」を完全に同じ意味で表す言葉はありませんが、近い表現として次のようなフレーズが使えます。
invincible(無敵の)
unbeatable(打ち負かせない)
a hero among men(群を抜いた英雄)
a man of unmatched strength(並ぶ者のない強者)
例文:
・He was an invincible warrior, a true “banpu futou” in spirit.
(彼は無敵の戦士であり、まさに万夫不当の精神を持っていた。)
このように、「万夫不当」は「無敵」「圧倒的」という意味合いで翻訳されます。
7. 歴史・文学に見る「万夫不当」の人物像
7.1 中国史の英雄・項羽
前述の通り、「万夫不当」は項羽の武勇を形容した言葉です。 彼は秦の滅亡後、劉邦と覇を競い、中国全土を揺るがす戦いを繰り広げました。 項羽の戦場での力強さとカリスマ性は、古今東西の英雄像の中でも際立っています。
7.2 日本史における「万夫不当」の人物
日本でも、戦国武将の中には「万夫不当」と称された人物がいます。 たとえば、本多忠勝(ほんだただかつ)は徳川家康の家臣で、戦場で一度も傷を負わなかったと伝えられる武将です。 また、源義経もその俊敏さと戦略で、多勢の敵を翻弄した「万夫不当の英雄」として語られています。
8. 現代社会での「万夫不当」の使われ方
現代では、実際の戦場ではなく、精神的・比喩的な意味でこの言葉が用いられます。
8.1 不屈の精神を持つ人への称賛
困難に立ち向かい、周囲の反対をものともせず信念を貫く人に対して、「万夫不当の精神を持つ」と表現します。
例文:
・批判を恐れず自分の道を進む彼女は、まさに万夫不当の信念を貫いている。
8.2 圧倒的な実績を持つ人への評価
スポーツ選手や経営者、芸術家など、他を圧倒する才能を持つ人物にも使われます。
例文:
・彼の独創的な作品は、万夫不当の才能の結晶だ。
9. 「万夫不当」と似た現代語表現
現代では、「万夫不当」という古風な言葉の代わりに、次のような表現が使われることがあります。
「圧倒的な強さ」
「無敵の存在」
「唯一無二の人物」
「伝説的な存在」
これらの表現も同様に、「誰にも負けない強さ」「比類なき才能」を意味します。
10. まとめ:「万夫不当」は時代を超えて輝く強さの象徴
「万夫不当(ばんぷふとう)」とは、一人で万人の敵にも立ち向かえるほど勇敢で、誰にも屈しない強者を意味する言葉です。
その起源は中国の『史記』に登場する項羽にあり、古代の英雄を象徴する四字熟語として伝わってきました。
現代においても、「万夫不当」は単なる武勇の強さだけでなく、
「信念を貫く強さ」「精神的な不屈の力」を表す言葉として生き続けています。
困難に立ち向かい、決して諦めない――
そんな人こそ、「万夫不当」の精神を体現する現代の英雄と言えるでしょう。
