「犯罪人名簿(はんざいにんめいぼ)」という言葉は、法学や行政文書の中で見かけることがあります。日常的にはあまり使われませんが、かつては刑罰を受けた人に関する重要な記録として存在していました。この記事では、「犯罪人名簿」の意味、法律的な仕組み、登録の目的や廃止の経緯までをわかりやすく解説します。
1. 「犯罪人名簿」とはどういう意味か
「犯罪人名簿(はんざいにんめいぼ)」とは、刑の確定を受けた者(有罪判決が確定した人)を記録した名簿のことを指す。
この名簿には、名前・生年月日・本籍地・罪名・刑の内容などが記載されており、刑の執行や公務員資格、恩赦などの法的手続きに利用された。
つまり、犯罪人名簿とは、国家が「刑罰を受けた人」を公式に記録する制度的な名簿である。
2. 「犯罪人名簿」の法的根拠
「犯罪人名簿」は、かつて刑法および刑事訴訟法に基づいて運用されていた制度である。
その根拠は旧刑法第20条や、旧戸籍法、さらに明治時代の「犯罪人名簿法」にあった。
この名簿の管理は主に法務省の管轄下に置かれ、裁判所で刑が確定すると、その情報が法務局を通じて名簿に登録されていた。
3. 犯罪人名簿の目的
犯罪人名簿が作成された主な目的は、以下の通りである。
- 1. 公務員資格や選挙権などの制限に関する確認
刑罰の内容によっては、一定期間公職に就けないなどの制限があるため、その判断の基礎資料とするために利用された。 - 2. 恩赦・刑の執行・再犯防止のための記録
過去に有罪判決を受けた者を確認することで、恩赦や再犯の有無を把握する目的があった。 - 3. 戸籍・身分関係との連携
明治時代の日本では、犯罪人名簿の情報が戸籍と連動し、社会的身分の記録として扱われることもあった。
このように、「犯罪人名簿」は単なるリストではなく、司法行政全体を支える国家的データベースとしての役割を果たしていた。
4. 登録の仕組み
犯罪人名簿への登録は、次のような流れで行われていた。
- 裁判で有罪判決が確定する。
- 裁判所が確定判決の情報を法務省または法務局に通知。
- 該当者の氏名・罪名・刑期などが犯罪人名簿に記録される。
- 刑の執行・終了・恩赦などがあれば、その都度更新される。
記録は永久保存ではなく、刑の終了から一定期間を経過した後に抹消される仕組みが設けられていた。
5. 現在の制度との違い
現在では、「犯罪人名簿」という名称・制度は存在しない。
昭和22年(1947年)の法改正により、犯罪人名簿制度は廃止された。
その代わりに、現在は以下のような仕組みが存在している。
| 現行制度 | 役割・内容 |
|---|---|
| 刑の言渡しに関する記録 | 裁判所や法務省が刑事事件の確定記録を保存。 |
| 犯罪経歴証明書 | 警察が過去の犯罪歴を証明(海外渡航・就職などで使用)。 |
| 前科照会制度 | 司法機関が捜査・裁判のために前科情報を照会。 |
つまり、現在は「個人の前科情報」は公に名簿化されておらず、国家機関内での記録・管理にとどまっている。
6. 「犯罪人名簿」の廃止理由
「犯罪人名簿」が廃止された背景には、次のような問題点があった。
- 1. プライバシーと差別の問題
名簿の存在により、刑を終えた後も社会的な差別や偏見を受けるケースが多発した。 - 2. 法制度の近代化
戦後の憲法改正により、個人の尊厳・平等の原則が重視され、旧来の「身分的記録制度」は廃止された。 - 3. 再犯防止よりも更生重視への転換
刑罰を受けた人の社会復帰を促す方針が主流となり、犯罪人名簿のような制度は時代に合わなくなった。
このように、「犯罪人名簿」は戦前の身分制度的な名残とされ、戦後の民主化の流れの中で姿を消した。
7. 「犯罪人名簿」と似た制度・言葉
| 制度・用語 | 意味 | 違い |
|---|---|---|
| 前科 | 有罪判決を受けた経歴。 | 個人情報として扱われ、名簿のように公表されない。 |
| 指名手配名簿 | 逃走中の被疑者を記載した警察資料。 | 犯罪人名簿とは対象者と目的が異なる。 |
| 犯罪経歴記録 | 警察や検察が内部で保持する犯罪歴。 | 外部への公開は制限されている。 |
→「犯罪人名簿」はこれらの中でも、最も制度的・公式な“国家記録”として存在していた。
8. 「犯罪人名簿」をめぐる歴史的背景
明治時代の日本では、近代的な法制度を整える過程で、「犯罪人名簿」は重要な役割を果たしていた。
当時は、戸籍制度や選挙制度が整い始めた時期であり、「刑罰を受けた人を明確に区別する」ことが社会秩序の維持と考えられていた。
しかし、その一方で、
- 刑期を終えても社会復帰が難しい。
- 就職・結婚・地域生活において不利益を被る。
といった問題が指摘され、戦後の人権意識の高まりとともに廃止された。
9. 英語での「犯罪人名簿」表現
「犯罪人名簿」を英語で説明する場合、直接対応する単語は存在しないが、文脈によって次のように表現できる。
- criminal record register(犯罪記録簿)
- list of convicted persons(有罪判決を受けた者の名簿)
- registry of offenders(犯罪者登録簿)
例文:
- In prewar Japan, a registry of offenders was kept by the government.(戦前の日本では、政府によって犯罪人名簿が管理されていた。)
- The criminal record register system was abolished after World War II.(犯罪人名簿制度は戦後に廃止された。)
10. まとめ
「犯罪人名簿」とは、かつて国家が有罪判決を受けた人を公式に記録した名簿制度である。
法的・行政的には重要な役割を果たしていたが、人権と社会復帰の観点から戦後に廃止された。
現在では、その機能は「犯罪経歴証明書」や「刑事記録保存制度」などに引き継がれているが、
個人の名誉と更生を守る観点から、公開名簿のような制度は存在しない。
