「徘徊(はいかい)」という言葉は、高齢者介護や認知症に関する話題の中でよく聞かれるようになりました。しかし、正確な意味やその背景、対応方法について理解している人は少ないかもしれません。本記事では「徘徊とは何か?」というテーマについて、基礎知識から実践的な対策までをわかりやすく解説します。

1. 徘徊とは何か

1.1 徘徊の意味

「徘徊(はいかい)」とは、目的や意味が明確でないまま、あてもなく歩き回る行動を指す言葉です。特に医学的・介護的な文脈では、認知症の症状の一つとして位置づけられます。本人にとっては何らかの目的がある場合も多く、単なる「迷子」とは異なる特徴を持っています。

1.2 一般的な使われ方

徘徊は通常、認知症の高齢者が自宅や施設から無断で外出し、行き先が分からなくなる状態として使われます。医療・介護の分野だけでなく、ニュースや地域の防災情報などでも「徘徊高齢者を探しています」といった文脈で使用されることがあります。

2. 徘徊の主な原因

2.1 認知症の進行による影響

徘徊の最も一般的な原因は、アルツハイマー型認知症などの認知機能低下による記憶障害や判断力の低下です。本人が今いる場所や時間、目的を正しく把握できず、自分の意思で行動しているように見えても、実際には混乱の中で移動していることが多いです。

2.2 不安やストレス、環境要因

新しい環境への不適応、日中の活動不足、周囲とのコミュニケーション不足なども徘徊を引き起こす要因になります。特に施設に入所した直後や、引っ越しをしたばかりの高齢者に徘徊行動が見られることがあります。

2.3 身体的な要因

トイレに行きたい、水が飲みたい、寒いなどの身体的な欲求がうまく言葉にできず、歩き出してしまうこともあります。徘徊の背景には単なる認知の問題だけでなく、さまざまな身体的・心理的要素が関係している場合があります。

3. 徘徊のリスクと影響

3.1 事故や怪我のリスク

徘徊の最大のリスクは、安全の確保が困難になることです。交通事故、転倒による骨折、極端な気温による熱中症や低体温症など、命に関わる事態に発展する可能性があります。特に夜間の徘徊は視界が悪く、発見が遅れる危険性が高くなります。

3.2 家族や介護者への負担

徘徊によって家族や介護者は常に緊張を強いられ、精神的・身体的に大きな負担を抱えることになります。捜索にかかる時間や労力、施設での対処も含めて、長期的には介護離職や共倒れの原因にもなり得ます。

4. 徘徊への基本的な対処法

4.1 環境の工夫

徘徊の予防には、本人の行動を完全に制限するのではなく、安全に行動できる環境を整えることが重要です。たとえば、玄関にロックをかける、ドアに「トイレはこちら」といった案内をつけることで迷いを軽減することができます。

4.2 行動の記録とパターンの把握

徘徊には一定の時間帯やきっかけがあることが多いため、日々の行動を記録し、パターンを把握することが対策に繋がります。特定の時間や状況で落ち着かない様子が見られる場合、その前後での声かけや見守りを強化することで徘徊を防止できます。

4.3 GPSや見守り機器の活用

近年ではGPS付きの靴、腕時計型の見守りデバイス、スマートフォンアプリなど、テクノロジーを活用した見守り対策が進んでいます。これらの機器を使用することで、徘徊が発生した際にも迅速に居場所を特定することが可能になります。

5. 介護施設や行政による支援

5.1 認知症高齢者の見守り体制

多くの自治体では、認知症高齢者の徘徊対策として「認知症SOSネットワーク」を構築しています。地域住民や警察と連携し、徘徊高齢者が発見された場合の対応体制を整備しています。事前に登録を行っておくことで、迅速な捜索が可能になります。

5.2 グループホームや専門施設での対応

グループホームや認知症対応型施設では、徘徊を前提とした建築設計やスタッフ体制が組まれています。安全に徘徊できるような回遊動線の設計や、常時見守りを行う体制が整っており、家庭介護では難しい支援が受けられる環境です。

6. 家族としてできること

6.1 否定せずに寄り添う姿勢

徘徊する本人には本人なりの理由があります。「家に帰りたい」「仕事に行かなくては」などと語る場合もあり、その背景には不安や記憶の混乱が存在しています。家族としては、その言葉を否定せず、安心感を与える対応を心がけることが大切です。

6.2 介護者の心身のケアも忘れずに

徘徊の対応は長期に及ぶことが多く、介護者が疲弊してしまうことも少なくありません。デイサービスやショートステイなど、外部の支援を上手に活用しながら、介護者自身の生活や健康を守ることも大切です。

7. まとめ:徘徊は理解と支援が必要な行動

徘徊とは、主に認知症などの影響によって目的が不明確なまま歩き回る行動を指します。単なる迷子とは異なり、本人には理由があり、その背景には記憶障害や不安、生活環境などが関係しています。
徘徊を完全に防ぐことは難しい場合もありますが、理解と予防、テクノロジーの活用、地域との連携によってリスクを大きく減らすことが可能です。家族や介護者だけで抱え込まず、支援制度や専門機関を活用しながら、安心して生活できる環境を目指していくことが重要です。

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