「専務(せんむ)」という肩書は、日本の企業で頻繁に見られる役職の一つですが、その具体的な役割や、他の役員との違いを正確に理解している人は意外と少ないかもしれません。本記事では「専務」の意味や責任範囲、関連する役職との比較を通して、その立ち位置や重要性を丁寧に解説します。
1. 専務とは何か?
「専務」とは、「専務取締役(せんむとりしまりやく)」の略称で、企業の取締役のうち、特定の業務に専任で責任を持つ役員を指します。会社法上の正式な呼称ではありませんが、日本の多くの企業において、社長や副社長に次ぐ経営幹部として位置付けられています。
多くの場合、経営会議や重要な事業戦略の策定、各部門の統括など、会社の中核的な業務を担っている存在です。
2. 専務の主な役割と責任
2.1 取締役会の一員としての役割
専務は、社長や他の取締役と共に取締役会に参加し、経営方針や重要事項についての決議に加わる役割を持ちます。特定の業務分野において主導的な立場を取ることが多いです。
2.2 特定部門の統括責任
営業、経理、人事、製造など、特定の業務領域に関する統括責任を任されることが多く、担当分野のパフォーマンスや管理体制の強化を担います。
2.3 社長や副社長の補佐
専務は、社長や副社長の補佐役としても機能し、日常的な経営判断や現場マネジメントを代行する場面もあります。トップマネジメントに次ぐ存在として、現場と経営陣をつなぐ重要な役職です。
3. 他の役職との違い
3.1 常務との違い
常務取締役は、専務よりも下位に位置する役職とされるのが一般的です。常務が日常的な業務運営を担うのに対し、専務はより広範な経営判断や統括業務に携わります。
例:
・常務 → 現場部門の管理や事業部レベルの調整
・専務 → 全社的な業務や経営方針の実行責任
3.2 副社長との違い
副社長は社長不在時の代行を含め、より経営トップに近い役職です。専務はそれに次ぐ役職とされ、実務面では副社長と近いポジションで連携することが多いです。
3.3 取締役との違い
「取締役」は法的な役員の呼称であり、専務や常務、副社長といった呼称はあくまで企業が定めた職位の区分です。つまり、専務も取締役の一種であり、役割によって呼び分けられているに過ぎません。
4. 専務が活躍する場面
4.1 事業戦略の実行フェーズ
中長期の経営戦略が決定された後、その戦略を現場レベルに落とし込み、実行に移す過程で専務の役割は非常に大きくなります。担当部門の責任者として、戦略の実現に向けた具体策を打ち出します。
4.2 トラブル対応や意思決定の現場
大きなプロジェクトの途中で発生する課題やリスクに対して、迅速かつ的確な判断を下すのも専務の重要な役割です。社長や副社長が外部対応に追われる中、社内の統率を図る存在として動きます。
4.3 社長の右腕としての調整役
複数の事業部門間の調整や、経営層と現場の橋渡しといった「社内の潤滑油」としての役割も専務に期待されます。社長の意向を現場に伝えたり、逆に現場の課題を経営層に上げる役割も担います。
5. 専務になるには?
5.1 長年の社歴と信頼
専務に昇進するには、長期間にわたる社内での実績と、経営層からの信頼が不可欠です。特に、現場を熟知し、問題解決能力に優れた人材が選ばれやすい傾向があります。
5.2 経営視点を持った判断力
企業全体を見渡す視野や、数字に基づいた戦略的判断ができることも求められます。単なる部門管理だけでなく、企業の利益や将来に影響を与える決断が必要です。
5.3 社内外のコミュニケーション力
社内だけでなく、取引先や外部関係者との交渉、メディア対応など、幅広い対人スキルが必要です。組織全体の信頼を背負う立場として、バランス感覚も重要です。
6. 専務の肩書における注意点
6.1 会社によって役割は異なる
「専務」という役職名は法的な定義がないため、企業ごとに職務範囲や権限が異なります。中小企業では社長のすぐ下のナンバー2として幅広く権限を持つケースもあります。
6.2 海外には存在しない役職
英語圏には「専務」に相当する役職は明確に存在しません。英語では「Executive Managing Director」や「Senior Executive Director」などと訳されることがありますが、意味は会社によって変わるため注意が必要です。
6.3 名前の印象だけにとらわれない
「専務」と聞くと偉そうなイメージを持つかもしれませんが、企業によっては象徴的な肩書にとどまり、実際の決裁権や実務にはあまり関与しない場合もあります。役職の実態は業務内容から判断すべきです。
7. まとめ
「専務」とは、企業の中で特定の業務を統括し、経営の実行部隊として活躍する重要な役職です。社長や副社長のサポート役でありながら、現場との橋渡しや調整役としても大きな責任を担います。常務や副社長との違いを正しく理解し、その役割を明確にすることで、企業内の意思決定や組織運営がより円滑に進みます。ビジネスシーンで「専務」という肩書を見かけた際には、その背景にある業務内容や組織構造を意識して接することが大切です。