人の感情を表す言葉の中でも、「厭う(いとう)」は少し古風で文学的な響きを持つ言葉です。日常会話ではあまり使われませんが、小説や詩、ニュースなどで見かけることがあります。本記事では、「厭う」の正しい意味や使い方、類語や例文を交えて詳しく解説します。日本語表現を豊かにしたい方はぜひ参考にしてください。
1. 厭うとは?意味をわかりやすく解説
「厭う(いとう)」とは、嫌がる・避ける・好まないという意味を持つ言葉です。
現代ではあまり口語では使われませんが、文章語や文語調の表現として用いられることが多いです。
具体的な意味としては以下の通りです。
不快に思って避ける
面倒に感じて避ける
心理的に拒絶する
つまり、「厭う」は単なる「嫌い」とは少し違い、「心の奥で拒む」「近づきたくない」といった深い嫌悪や拒絶のニュアンスを含みます。
2. 厭うの読み方と語源
2-1. 読み方
「厭う」は「いとう」と読みます。日常では「嫌う(きらう)」と似た意味を持つため混同されることがありますが、語感が異なります。
2-2. 語源
「厭(いと)う」の語源は古語の「厭(いと)ふ」から来ています。古くは『源氏物語』や『万葉集』などでも使われており、「好まない」「避ける」という意味で用いられてきました。 「厭(いや)」という音にも通じ、「いやだ」「いやしく思う」という感情を表す言葉として発展しました。
3. 厭うの使い方と例文
3-1. 日常文での使い方
現代では会話で使うことは少ないですが、書き言葉や文学作品などでは見かけることがあります。たとえば、精神的な拒絶や人生に対する倦怠感を表す場面で使われます。
3-2. 例文
1. 人との争いを厭う彼は、常に平和的な解決を望んでいた。 2. 雨の日を厭う人もいれば、静けさを好む人もいる。 3. 苦労を厭わず努力する姿勢が成功を呼ぶ。 4. 彼女は形式ばった挨拶を厭うタイプだ。
このように、「厭う」は主語の心理や価値観を繊細に表現することができます。
4. 「厭う」と「嫌う」「忌避する」の違い
4-1. 「厭う」と「嫌う」
「嫌う」は、感情的に不快に思う・好まないという意味で、日常的に使われる言葉です。 一方「厭う」は、「心の奥で避けたい」「関わりたくない」という内面的な拒絶を強調します。
例:
「彼の性格を嫌う」→単純に好きではない感情。
「人と関わることを厭う」→深い心理的抵抗がある。
4-2. 「厭う」と「忌避する」
「忌避(きひ)する」はより硬い言葉で、「社会的・制度的に避ける」「理性的に拒む」などの意味を持ちます。 「厭う」は感情的・個人的な拒絶、「忌避する」は理性的・社会的な拒絶という違いがあります。
5. 「厭わない」という形もよく使われる
「厭う」の否定形「厭わない(いとわない)」は、ビジネスやスピーチなどで頻繁に使われます。
意味は「嫌がらない」「面倒と思わない」で、「努力を惜しまない」という前向きな文脈で登場します。
5-1. 例文
1. 成功のためには苦労を厭わない覚悟が必要だ。 2. 人のために尽くすことを厭わない姿勢は尊い。 3. どんな困難も厭わず挑戦し続ける。
このように、「厭う」とは逆のポジティブな意味で用いられるのが「厭わない」です。
6. 厭うの類語と対義語
6-1. 類語
- 嫌う(きらう) - 嫌がる(いやがる) - 避ける(さける) - 敬遠する(けいえんする) - 忌避する(きひする)
これらはいずれも「好まない」「避ける」という意味を共有しますが、感情の強さや使う場面が少し異なります。
6-2. 対義語
- 好む(このむ) - 受け入れる - 歓迎する
「厭う」は拒否的な感情を示すため、対義語は「好意的」「受容的」な意味を持つ言葉となります。
7. 文学や古典での「厭う」の使われ方
古典文学では「厭ふ」という形で多く登場します。たとえば『源氏物語』には「世を厭ふ」という表現があり、「この世を嫌って離れたい」「俗世を避けたい」という意味で使われます。
この表現は、現代でも「世を厭う」として引用されることがあり、人生や社会への倦怠・無常観を象徴する言葉として定着しています。
例:
「世を厭うような生き方」=現実に失望し、静かな人生を望む姿勢。
文学的な響きを持つため、詩や小説では人間の内面描写に多用されます。
8. 「厭う」を使うときの注意点
8-1. 日常会話ではやや堅い
「厭う」は文語的であり、普段の会話で使うと少し違和感を与えることがあります。話し言葉では「嫌う」「避ける」を使う方が自然です。
8-2. 感情表現に深みを出す場面で有効
文章で使う際は、心の奥の感情や哲学的な思索を表すときに適しています。 たとえば、エッセイや小説、評論文などで「厭う」という語を使うと、上品で重みのある表現になります。
9. まとめ|「厭う」は心の拒絶を丁寧に表す言葉
「厭う(いとう)」は、「嫌がる」「避ける」といった意味を持ちながら、より深い心理的拒絶を表す日本語です。
古くから文学や詩で使われ、現代でも「苦労を厭わない」などの形で広く用いられています。
感情を繊細に伝えたいときや、文章に品格を与えたいときに効果的に使える表現です。