「法律に抵触する」という表現は、ニュースやビジネスシーンで見聞きする機会が多い言葉です。しかし、違反との違いや、どのような行為が抵触に該当するのかは意外と知られていません。本記事では、この表現の正しい意味、使われ方、具体例、さらに日常生活やビジネスで注意すべきポイントまで網羅的に解説します。

1. 法律に抵触するとは

「法律に抵触する」とは、行為が法律に反している、または反していると判断される可能性がある状態を指す表現である。直接的な法令違反を意味する場合もあるが、必ずしも明白な違反でなくとも、法の趣旨に沿わない行為や、制度のグレーゾーンに入る行為も広く含まれる。

このため、「法律に抵触する」は、違法行為と断定する表現よりも慎重なニュアンスを含む。実務では、相手に配慮しつつ法的な問題を指摘したいときにも使われることが多い。

1-1. 抵触と違反の違い

「違反」は条文に明確に反している行為を指す。一方「抵触」は、条文の直接的な禁止事項に該当しなくても、法令の解釈や行政の運用に照らして問題がある場合にも用いられる。

例えば、労働基準法に定める残業時間が厳密に超えていなくても、恒常的に長時間労働が続いている状態は「抵触の可能性がある」と判断される場合がある。このように、抵触は違反より広い概念である点が重要である。

1-2. ビジネスで使われる場面

ビジネスでは、契約管理、広告表現、人事・労務、情報管理など多くの分野で「抵触」が使われる。法務部門は、法令違反には至らないがリスクがある行為について、社内に慎重な判断を促す際に「抵触の恐れがある」という表現を用いることが多い。

2. 法律に抵触する具体的なケース

法律に抵触する可能性があるケースは、企業活動はもちろん、日常生活の中にも多数存在する。ここでは代表的な分野ごとに具体例を紹介する。

2-1. 労働関連の抵触例

労働基準法や労働契約法は、労働者を保護する目的で多くのルールを定めている。以下のような行為は抵触の可能性が高い。

・過度な残業を黙認する
・有給休暇の取得を不当に妨げる
・雇用契約を曖昧にしたまま働かせる
・実質的に解雇と同等の扱いをする

これらは明確な違法行為とされることも多いが、法令違反と確定される前段階で「抵触」と表現されることもある。

2-2. 個人情報保護法に関する抵触例

顧客データ・社員情報・利用者データの取り扱いは企業にとって重大な責務である。以下の行為は抵触の可能性がある。

・利用目的を明確にせず個人情報を収集する
・データを社外に共有する際に適切な許可を取らない
・アクセス権限を厳格に管理しない
・データ管理システムのセキュリティが不十分

明確な違反ではなくても、管理体制の甘さが抵触と評価されるケースがある。

2-3. 広告・表示に関する抵触例

景品表示法や薬機法は、商品やサービスに関する虚偽・誇大な広告を防ぐための法律である。

・根拠のない効能を主張する
・景品の内容を実際より良く見せる
・法律上必要な表示を行わない

特に健康食品や化粧品、医療系サービスでは抵触しやすく、企業は慎重な広告設計が求められる。

2-4. 交通関連の抵触例

道路交通法に抵触する可能性のある行為は日常の中に多い。

・自転車の無灯火
・ながらスマホ運転
・横断禁止場所での横断
・徐行義務違反にあたる運転

些細な行動でも抵触に繋がるため、注意が必要である。

3. 法律に抵触するかどうかの判断基準

抵触の判断は単に条文を見るだけでは不十分である。行政の運用や社会的常識も影響する。

3-1. 条文に該当するかを確認する

まずは法律の条文に禁止規定があるかを確認する。条文に直接反している場合は違反であり、「抵触」という表現は使われにくい。

ただし、条文の解釈が曖昧な場合や、複数の法律に跨る場合は抵触判断が必要になる。

3-2. 行政のガイドラインや通達

行政機関は法令の運用や解釈をガイドラインとして示すことがある。これらが定める基準を満たしていない場合、抵触と評価されることが多い。

正式な法律ではないが、実務上は遵守すべき基準として扱われやすい。

3-3. 過去の判例・指導事例

似たケースの裁判例や行政処分例は重要な判断材料となる。特に新しい分野や解釈が曖昧な分野では、条文よりも判例の方が実務的な指標として使われることがある。

4. 法律に抵触した場合のリスク

抵触が明確な違反として認定された場合、個人・企業には重大なリスクが発生する。

4-1. 行政指導や改善命令

違反ではなくても、抵触と判断されると行政が改善を求めることがある。放置すればさらに重い指導や処分に発展する可能性がある。

4-2. 罰則・行政処分

刑事罰として罰金や懲役が科されることもあれば、企業には営業停止や業務改善命令が出される事例もある。

4-3. 社会的信用の喪失

法律に抵触した事実は企業イメージに大きな影響を与える。特に企業不祥事はニュースで広まりやすく、ブランド価値の低下につながる。

4-4. 民事責任・損害賠償

違法性があると判断されれば損害賠償の対象となり、企業や個人が多額の負担を負う可能性がある。

5. 法律に抵触しないための対策

日常生活や企業活動で抵触を避けるためには、事前の対策が重要である。

5-1. 法令やガイドラインを定期的に確認する

法改正は頻繁に行われるため、最新情報の把握は欠かせない。特にIT・広告・医療など変化が早い分野では重要である。

5-2. 社内教育や研修を実施する

企業では従業員が法令を理解し、適切な行動を取れるよう研修を行う必要がある。これにより抵触リスクを低減できる。

5-3. 専門家に相談する

法務担当者や弁護士に相談することで、抵触リスクを客観的に判断できる。特に新規事業を開始する際や新しいサービスを展開する際には重要である。

6. 日常で注意したい抵触行為の例

日常生活の中にも法律に抵触しやすい行動がある。

6-1. 著作物の無断利用

ネット上の画像や動画、音楽を無断で使用する行為は著作権法に抵触する可能性が高い。SNSへの転載にも注意が必要である。

6-2. ハラスメント行為

身体的な接触だけでなく、不適切な発言や執拗な連絡も各種の法令に抵触することがある。企業ではハラスメント対策が必須である。

6-3. 軽微な交通違反

自転車の信号無視や無灯火運転などは軽く見られがちだが、道路交通法に抵触する行為である。

7. まとめ

法律に抵触するとは、明らかな違法行為だけでなく、法令の趣旨に反した行為やグレーゾーンに入る行為を含む広い概念である。ビジネスや日常生活のさまざまな場面で使われる表現であり、適切に理解することでトラブルを未然に防ぐことができる。法令遵守の意識を高め、必要に応じて専門家に相談することが重要である。

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