「被差別部落(ひさべつぶらく)」という言葉は、日本の社会問題や歴史教育の中で登場する用語です。
現在では差別の解消に向けた取り組みが進められていますが、この言葉の背景には長い歴史的経緯があります。
この記事では、「被差別部落」の意味、成立の経緯、差別の実態、そして現代の状況までをわかりやすく解説します。
1. 被差別部落とは?
「被差別部落」とは、歴史的に社会から差別や偏見を受けてきた地域や、その地域に住む人々を指す言葉です。
特に江戸時代の「身分制度(士農工商)」のもとで、差別的な立場に置かれた「えた」「ひにん」と呼ばれた人々の子孫が住んでいた地域が、後に「被差別部落」と呼ばれるようになりました。
「被差別」とは「差別を受けている立場にある」という意味であり、「部落」とはもともと「集落」「地域共同体」を意味します。
- 被差別部落=差別を受けてきた特定の地域
- 被差別部落民=その地域に住む、あるいは出身の人々
この言葉は、差別問題を正面から考えるための社会学・歴史学用語として使われています。
2. 歴史的背景
2-1. 江戸時代の身分制度
江戸時代には、「士(武士)・農(農民)・工(職人)・商(商人)」という身分のほかに、
「えた」「ひにん」と呼ばれる被差別身分の人々が存在しました。
彼らは、動物の処理や皮革業、刑の執行など、当時“穢れ”とされた職業に従事することを強いられました。
この制度は幕府による政策的な区別であり、社会の秩序を保つ目的で作られたものですが、
結果として差別と偏見を固定化する構造を生み出しました。
2-2. 明治時代の「解放令」
1871年(明治4年)、明治政府は「解放令(正式には太政官布告第61号)」を出し、
「えた」「ひにん」と呼ばれていた身分を廃止しました。
これにより法的にはすべての人が平等となりました。
しかし、現実には社会の意識はすぐには変わらず、就職・結婚・居住などでの差別が続きました。
このため、形式的な平等と実際の差別の間に大きなギャップが生まれたのです。
2-3. 戦後以降の動き
第二次世界大戦後、民主主義と基本的人権の考えが広まり、被差別部落に対する差別の撤廃を求める運動が本格化しました。
- 1922年:「全国水平社」設立。日本初の人権運動組織。
- 1960年代:同和対策事業が始まり、住宅や教育の整備が進む。
- 1969年:「同和対策事業特別措置法」制定(のちに数回延長)。
これらの施策により、生活環境の改善や教育格差の是正が進みましたが、偏見や差別意識は根強く残りました。
3. 「被差別部落」という言葉の注意点
「被差別部落」という言葉は、研究や公的な文脈で使用される場合に限られます。
日常会話や個人を指す際に使うことは、差別的な文脈を想起させるおそれがあるため避けられています。
また、「部落」という言葉自体も、本来は「集落」や「地域共同体」を意味しますが、
「被差別部落」と混同されやすいため、行政や教育現場では「地域」「地区」と言い換えられることが多くなっています。
4. 現代社会における被差別部落問題
現在では法的な差別は存在しませんが、社会的にはまだ次のような課題が残っています。
- 出身地を理由とした就職・結婚差別
- インターネット上での部落差別情報の拡散
- 特定地域を扱う差別的発言や投稿
- 差別を助長する「部落地名リスト」の違法流通
これらは現代の「新しい差別の形」として問題視されており、
政府・自治体・民間団体が連携して啓発活動を続けています。
5. 行政と法的な対策
- 同和対策審議会答申(1965年):被差別問題を「人間の基本的権利に関わる問題」と明確に位置づけ。
- 部落差別解消推進法(2016年施行):差別のない社会の実現を目指す法律。
2016年の「部落差別解消推進法」では、差別的な言動やインターネット上の中傷行為などに対して、
国と地方自治体に啓発・調査・支援を行う責任があることが定められました。
6. 「被差別部落」をめぐる誤解と偏見
被差別部落に関する問題は、現代社会でも誤解や偏見が残っている分野です。
インターネット上では、特定の地域や個人を特定しようとする投稿が見られますが、これは明確な差別行為であり、違法となる場合もあります。
重要なのは、「過去に差別があった歴史を正確に学び、同じことを繰り返さない社会を築くこと」です。
7. 類似・関連する用語
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 同和地区 | 行政上の表現で、被差別部落を指す中立的な用語。 |
| 水平社 | 1922年に設立された、日本初の人権平等運動団体。 |
| 部落差別 | 出身地や家系を理由とした差別。 |
| 同和対策 | 被差別地域の生活・教育・雇用を改善する政策。 |
8. まとめ
「被差別部落」とは、歴史的に社会から差別を受けてきた地域や人々を指す言葉です。
法的な身分制度は明治時代に廃止されましたが、偏見や差別は長く残り、今日でも完全な解消には至っていません。
この問題を語る際には、差別を助長しない配慮と、正確な歴史理解が求められます。
過去の差別の歴史を知ることは、今の社会で人権を守る第一歩でもあります。
