「見送る(みおくる)」という言葉は、日常の中でも非常によく使われる日本語です。
誰かを送り出すときに使われるほか、判断を保留するときや、取引や提案を断る場面などでも登場します。
一見シンプルな言葉ですが、実は多くの意味と使い方を持っています。この記事では、「見送る」の意味、使い分け方、例文、ビジネスでの活用までをわかりやすく解説します。
1. 「見送る」の基本的な意味
1-1. 「見送る」とは
「見送る」とは、文字通り「見て送り出す」という意味の動詞です。 人が出かける・出発する・去るなどの際に、その姿を目で見届けることを指します。 たとえば、駅や空港で家族を見送る、卒業式で先輩を見送るなどが代表的な使い方です。
1-2. 「見送る」の多義性
「見送る」には複数の意味があります。主な意味は以下の通りです。 1. 人を送り出す(例:友人を駅まで見送る) 2. 死者を葬る(例:亡くなった祖母を静かに見送る) 3. 判断を保留する、実行しない(例:今回の導入は見送る) 4. 目で追う、眺める(例:飛行機を見送る) このように、「見送る」は文脈によって意味が変化する言葉です。
2. 「見送る」の語源と成り立ち
2-1. 古語から現代までの変遷
「見送る」は古くから使われている日本語で、「見る(目でとらえる)」と「送る(去る人や物を送り出す)」が組み合わさって生まれた言葉です。 もともとは、物理的に人を送り出す場面を指して使われていましたが、時代とともに比喩的な使い方も広がりました。
2-2. 現代的な用法の拡張
現在では、単に人を送り出す意味だけでなく、「行動を控える」「決定を延期する」といった抽象的な意味でも用いられています。 たとえば「プロジェクトの開始を見送る」という場合、誰かを送り出しているわけではなく、「行動を一時的に止める・延期する」という意味で使われています。
3. 「見送る」の使い方と例文
3-1. 人を送り出す意味での使い方
この使い方が最も一般的です。 例文: ・空港で友人を見送った。 ・卒業式で後輩たちを見送る先輩たちの姿が印象的だった。 ・旅立つ恋人を見送る瞬間、胸が熱くなった。
人が物理的にその場を離れるとき、「見送る」は「別れの象徴」として感情的な響きを持つ言葉でもあります。
3-2. 死者を送り出す意味での使い方
「見送る」は葬儀や別れの場面でも使われます。 例文: ・多くの人が彼の最期を静かに見送った。 ・長年の恩師を涙ながらに見送る。 ・家族全員で母を見送ることができた。
この場合の「見送る」は、「葬儀を行い、故人をあの世へ送り出す」という意味合いを持ちます。
やわらかく敬意を込めた表現として使われるのが特徴です。
3-3. 判断を保留・中止する意味での使い方
ビジネスシーンで頻繁に登場するのがこの使い方です。 例文: ・コスト面の課題から、今回の導入は見送ることにした。 ・天候が悪いため、イベントの開催を見送ります。 ・条件が整うまで契約を見送る方針です。
ここでの「見送る」は「実施しない」「延期する」といった意味になります。
直接的に「中止」「拒否」と言うよりも、柔らかく聞こえる表現のため、社内外のやり取りで好まれます。
4. 「見送る」の類語と言い換え表現
4-1. 人を送る意味での類語
・送り出す ・送る ・別れを告げる ・見届ける これらはいずれも「誰かをその場から送り出す」動作を指しますが、「見送る」は特に“目で見届ける”という点に重点があります。
4-2. 判断を保留する意味での類語
・延期する ・保留する ・中止する ・実施を控える これらの中で「見送る」は最も婉曲的で、相手に配慮した表現です。 「中止する」と明確に言うと強い印象を与えるため、ビジネスでは「見送る」がよく選ばれます。
4-3. 死者を送る意味での類語
・弔う ・葬る ・送り出す ・最期を見届ける これらの中でも「見送る」は、宗教的・儀礼的な意味よりも、「心を込めて別れを受け止める」という温かい印象を与えます。
5. 「見送る」を使う際の注意点
5-1. 文脈で意味が大きく変わる
「見送る」は場面によって意味が変わるため、誤解を招かないよう注意が必要です。 たとえば、「今回の件は見送ります」とだけ言うと、「断る」のか「延期する」のかが曖昧になります。 明確に伝えるには、「今回は予算の都合で見送ります」「次回以降の検討にします」など、理由を添えるのが望ましいです。
5-2. 敬語での使い方
目上の人に対して「見送る」を使う場合は、「お見送りする」「お見送り申し上げる」などの敬語表現にします。 例文: ・本日はご出発をお見送りいたします。 ・葬儀では多くの方々にお見送りいただきました。
丁寧な言い方を心がけることで、相手に敬意を示すことができます。
5-3. ビジネスメールでの注意
ビジネスで「見送る」を使うときは、断る意図を伝える際に便利ですが、表現を誤ると冷たく聞こえることがあります。 例文: ・今回は社内方針により、導入を見送らせていただくことになりました。 このように「理由+見送る+丁寧な語尾」で伝えると、柔らかい印象になります。
6. 「見送る」が持つ心理的・文化的なニュアンス
6-1. 日本文化における「見送る」
日本では「見送る」という行為に「思いやり」や「礼儀」が込められています。 玄関先で相手の背中が見えなくなるまで見送る、駅のホームで電車が見えなくなるまで手を振るなど、「相手を大切にする文化」を象徴する行動です。
6-2. 「見送る」に込められる感情
「見送る」には、単なる動作以上の意味があります。 別れを惜しむ気持ち、次の再会を願う気持ち、感謝を伝える気持ちなど、送り出す側の心情が表れる言葉です。 そのため、文章や会話で「見送る」と表現すると、情感豊かな印象を与えます。
6-3. 比喩としての「見送る」
「見送る」は比喩的にも使われます。 たとえば、「チャンスを見送る」は「行動せずに機会を逃す」という意味です。 ・好機を見送ってしまった。 ・彼はあえて契約を見送った。 このように、物理的な動作を越えて「判断」や「選択」の表現にも応用できます。
7. まとめ|「見送る」は思いやりと判断の言葉
「見送る」という言葉には、人を送り出す優しさから、行動を控える冷静な判断まで、幅広い意味があります。
ポイントを整理すると次の通りです。
「見送る」は「送り出す」「保留する」「断る」など多様な意味を持つ
ビジネスでは柔らかく断る言葉として有用
敬語では「お見送りする」「見送らせていただく」と丁寧に
日本文化では「思いやり」「別れの礼儀」を象徴する
たった一つの動詞でありながら、「見送る」は場面ごとに深い感情や判断を表現できる奥深い言葉です。
使い方を理解しておくことで、日常の会話からビジネスシーンまで、より自然で豊かな日本語表現ができるようになります。
