「いざり」という言葉は、古語や方言として使われる場合、また特定の動作や状態を指す場合があります。現代ではあまり日常的に使われませんが、文学作品や歴史資料、地域の文化を理解する上で知っておきたい語です。本記事では、「いざり」の意味、使い方、語源、文化的背景を詳しく解説します。

1. いざりの基本的な意味

1-1. 辞書的定義

「いざり」とは、座ったまま膝や尻を使って前進する動作や、そのような進み方を指します。また、古語や方言として「座った姿勢で移動する」という意味でも用いられます。

1-2. 動作としての意味

主に脚が不自由な人や、膝をついたままの状態で移動する場合に使われる言葉です。身体的理由のほか、作業や儀式で座った姿勢を保ったまま移動する際にも用いられます。

1-3. 現代語との関係

現代では「いざる」「いざって進む」などの形で使われることが多く、方言的な響きを持つ場合があります。

2. いざりの語源と歴史

2-1. 語源の由来

古語の「いざる」が名詞化した形とされ、「居(い)」+「去る(さる)」の結合によって「座ったまま進む」という意味が生まれたと考えられています。

2-2. 文献での登場

平安時代の文学や江戸時代の記録において、漁業や農作業、舞台芸能などで「いざる」という動作が描写されています。

2-3. 方言としての使用

一部地域では「いざり」が漁法の名前や、作業動作を指す言葉として残っています。特に漁業での「いざり漁」は有名です。

3. いざりの使い方

3-1. 日常的な例文

・子どもが畳の上をいざって進んでいる。 ・脚を痛めた祖父は、椅子からいざって台所まで行った。

3-2. 方言・地域文化での例

・いざり漁では、船から身を乗り出して道具を操る。 ・地域の祭りで、いざり役がゆっくりと舞台を移動する。

3-3. 文学的表現での例

・彼はいざりながら近づき、そっと手を差し伸べた。 ・夜明け前、漁師はいざって舟縁に腰を下ろした。

4. 関連する文化的背景

4-1. いざり漁

「いざり漁」は、夜間に灯りを使って魚をおびき寄せ、船べりから道具を差し出して捕る伝統漁法です。特に石川県や富山県で伝承されています。

4-2. 舞台芸能におけるいざり

能や歌舞伎などで、役者が膝を使って滑るように進む動作を「いざり」と呼ぶことがあります。これにより、静かで落ち着いた雰囲気や緊張感を演出します。

4-3. 作業動作としての継承

農作業や手作業の現場でも、立たずに座ったまま移動する方法として「いざり」が残っています。

5. いざりと似た言葉との違い

5-1. ほふくとの違い

「ほふく」はうつ伏せで進む動作であり、「いざり」は座った姿勢で進む点が異なります。

5-2. はうとの違い

「はう」は手足を使って地面を這うことを意味し、「いざり」は下半身を動かさずに前進する点で異なります。

5-3. 膝行との比較

「膝行(しっこう)」は正座したまま膝を交互に動かして進む所作で、武道や茶道で用いられます。いざりはこれに似ていますが、より一般的で日常的な動作にも使われます。

6. 英語での表現

6-1. 主な英訳

・shuffle forward while sitting ・move forward on one’s knees ・crawl in a seated position

6-2. 例文

・He shuffled forward while sitting on the floor.(彼はいざって床の上を進んだ。) ・The fisherman moved forward on his knees to reach the edge of the boat.(漁師はいざって船べりに近づいた。)

6-3. 注意点

英語では単語ひとつで表すよりも、動作を説明する形が一般的です。

7. 現代におけるいざりの位置づけ

7-1. 方言としての存続

一部地域では日常語として生きており、特に漁業や農業の場で受け継がれています。

7-2. 歴史や文化の理解

昔の生活様式や身体の使い方を理解する上で、「いざり」という言葉は貴重な資料となります。

7-3. 表現としての活用

文学や脚本で臨場感を与えるために「いざり」という動作描写が用いられることがあります。

8. まとめ

「いざり」は、座った姿勢で前進する動作を表す日本語で、古語や方言としても残る文化的価値の高い言葉です。漁法や舞台芸能、日常動作においても独特の存在感を持ち、現代においても地域文化や文学表現の中で息づいています。この言葉を知ることで、日本語の豊かさと文化の多様性をより深く理解することができます。

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