研究論文やレポートなどでよく見かける「抄録」という言葉。なんとなく「要約」だと理解していても、正式な意味や書き方のポイントを正確に説明できる人は少ないかもしれません。この記事では、「抄録とは何か」を中心に、目的・構成・書き方のコツ・要約との違いまで詳しく解説します。

1. 抄録とは

1-1. 抄録の基本的な意味

抄録とは、論文や研究報告などの内容を短くまとめた文章のことです。英語では「abstract(アブストラクト)」と呼ばれ、学術的な文書においては必ずといってよいほど付けられる要素です。読者が本文を読む前に内容を把握できるようにすることを目的としています。

一般的には、研究の目的・方法・結果・考察といった要点を簡潔にまとめる形式で書かれます。特に学会や学術誌への投稿時には、本文よりも先に抄録だけで審査される場合もあり、非常に重要な要素です。

1-2. 抄録の役割と目的

抄録の最大の目的は、読者に「その論文がどのような研究を行ったのか」を短時間で伝えることにあります。すべての研究を全文読むのは非効率なため、抄録を読むことで興味のある研究かどうかを判断する指標になるのです。

また、データベースでの検索時にも抄録の内容が参照されるため、キーワードを適切に含めることで検索性が高まり、研究の露出を増やす効果もあります。

2. 抄録の構成要素

2-1. 一般的な構成

抄録は短い文章ながら、内容を明確に伝えるための構成があります。代表的な構成は以下のようになります。

研究の背景・目的

研究方法

結果の概要

考察・結論

この4要素をバランスよく盛り込むことで、読者は研究の全体像をスムーズに把握できます。

2-2. 文字数の目安

抄録の文字数は、分野や媒体によって異なります。学会発表などでは200〜400字程度、論文誌では600〜800字程度が一般的です。英語論文の場合は150〜250語程度にまとめるのが標準的とされています。

重要なのは、限られた文字数の中で「何を」「どう伝えるか」を明確にすることです。不要な修飾や曖昧な表現は避け、具体的かつ簡潔にまとめることが求められます。

3. 抄録の書き方のポイント

3-1. 客観的に書く

抄録では主観的な意見や感想を避け、あくまで客観的に研究の概要を示します。「〜と思う」「〜と感じた」などの表現は適していません。研究結果や結論を事実として明示することが大切です。

3-2. 専門用語の使い方

専門分野の研究であっても、抄録は多様な読者が目にします。そのため、難解な専門用語を多用せず、できる限り一般的な表現で説明することが推奨されます。やむを得ず専門用語を使う場合は、簡潔な補足を添えると親切です。

3-3. 結果を曖昧にしない

「詳細は本文で述べる」といった書き方は避け、主要な結果を明確に記載することが望まれます。抄録だけを読んでも成果が理解できるレベルの情報を含めるのが理想です。

3-4. 文体と時制

文体は常に簡潔・明快であることが求められます。 また、時制については「研究の目的・方法」は過去形、「結論」は現在形で書くのが一般的です。例として「本研究では〜を行った」「その結果〜が明らかになった」「この結果は〜を示す」といった流れが自然です。

4. 抄録と要約の違い

4-1. 要約との共通点

抄録も要約も「内容を短くまとめる」という点では共通しています。どちらも読者が短時間で全体像をつかむためのツールです。

4-2. 明確な違い

一方で、両者には目的と対象の違いがあります。 要約は、文章全体を理解した上で「どんな内容だったか」を整理するもので、教育や読書など幅広い分野で使われます。

それに対し、抄録は「研究成果を第三者に紹介するための正式な要約」です。研究者や査読者が読むことを前提としており、形式的・学術的な文体で書かれます。つまり、抄録は単なる要約ではなく、研究の価値を伝える公式な要素なのです。

5. 抄録を書く際の注意点

5-1. 情報量を絞る

抄録には、研究の本質を示すための情報だけを厳選して記載します。詳細なデータや図表の説明、参考文献などは不要です。読者に「研究の概要が理解できる」ことを最優先にしましょう。

5-2. 論理の流れを意識する

短文の中でも「背景→方法→結果→結論」という流れを保つことで、読みやすさと説得力が高まります。文を短く区切り、接続詞を効果的に使うと整理された印象になります。

5-3. キーワード選定を意識する

学術データベースでの検索を考慮し、抄録内に適切なキーワードを含めることがSEO的にも有効です。研究テーマを代表する語を自然に盛り込むよう意識しましょう。

6. 抄録のまとめ

抄録とは、研究内容の要点を簡潔に伝えるための重要な要約文です。短いながらも、研究の目的・方法・結果・結論を明確に示す必要があります。

単なる要約とは異なり、学術的信頼性を保ちながら内容を整理する力が求められるため、慎重に構成することが大切です。しっかりとした抄録は、研究全体の印象を左右する「顔」ともいえるでしょう。

おすすめの記事