「斯く(かく)」という言葉は、日常会話ではあまり使われませんが、文語的な表現や文学作品、スピーチ、ニュースなどで目にすることがあります。「斯くありたい」「斯くのごとし」といった言い回しは、どこか古風で格調高い印象を与える表現です。この記事では、「斯く」の意味や使い方、類語、語源までをわかりやすく解説します。

1. 斯くとは何か

1-1. 斯くの基本的な意味

「斯く(かく)」とは、「このように」「こう」といった意味を持つ副詞です。
現代語の「こう」とほぼ同じ意味で使われますが、「斯く」は文語的で、書き言葉や格調のある文章で用いられます。
例文:
・斯くして彼の人生は新たな段階へと進んだ。
(=こうして彼の人生は新しい段階に進んだ)
・斯くなる上は、全力を尽くすのみだ。
(=こうなった以上は、全力を尽くすしかない)

1-2. 現代語「こう」との違い

「斯く」は現代語の「こう」にあたりますが、次のような違いがあります。

| 区分 | 斯く | こう |
| --- | ----------- | ----------- |
| 用法 | 文語的・書き言葉 | 口語的・日常会話 |
| 印象 | 格調高い・古風 | カジュアル・日常的 |
| 使用例 | 斯くして、斯くなる上は | こうして、こうなったら |

つまり、「斯く」はフォーマルな文章や演説、文学作品などで使われ、一般会話で使うとやや硬い印象になります。

2. 斯くの使い方と例文

2-1. 文語的・格式のある表現での使用

「斯く」は、古風で重みのある表現を作るために用いられます。
例文:
・斯くして歴史は繰り返される。
・斯くのごとく人の世は無常である。
・斯くも美しき光景は他にない。

これらの例では、「こうして」「このように」という意味で使われていますが、言葉の響きによって文章に深みを与えます。

2-2. 決意や覚悟を表す表現

「斯くなる上は」は、ある状況を受け入れ、覚悟を決めたときに使われる定型表現です。
例文:
・斯くなる上は、最後まで戦うしかない。
・斯くなる上は、一から出直す覚悟だ。
この表現は、「こうなった以上は」「この結果になったからには」という意味で、強い意志や諦観を含みます。

2-3. 例示や引用の前に使う場合

「斯くのごとし」「斯くあるべし」などの形で、引用や評価を行う際にも使われます。
例文:
・その姿勢、まさに斯くのごとし。
・リーダーたる者、斯くあるべし。
このように、「理想的な状態」や「模範的なあり方」を述べる際に使われることが多いです。

3. 斯くの語源と歴史

3-1. 漢字「斯」の由来

「斯」は漢文由来の語で、中国語では「これ」「このように」という意味を持ちます。日本では古くから「斯く(かく)」と読み、「こう」「このように」と同じ意味で使われてきました。

3-2. 古典文学における用例

平安時代や鎌倉時代の文学作品にも、「斯く」は頻繁に登場します。たとえば『源氏物語』や『徒然草』などでは、「斯くて」「斯くのごとく」といった形で用いられています。
例:「斯く言ふも、ただ昔の人を思ひ出でてのことなり」
(=こう言うのも、昔の人を思い出してのことである)
このように、古語の時代から「斯く」は「こう」と同義であり、文語的な表現として定着していました。

3-3. 現代への継承

現代日本語では「こう」が主流ですが、「斯く」は文学的表現、演説、歴史書、報道などで今も使われています。とくに公的文書や式辞のような改まった場では、「こう」よりも「斯く」の方がふさわしい場合があります。

4. 斯くを使った代表的な表現

4-1. 斯くして

意味:「こうして」「このようにして」
例文:
・斯くして二人の友情は永遠のものとなった。
・斯くして計画は無事に完了した。

4-2. 斯くなる上は

意味:「こうなった以上は」「この状況ではもう~しかない」
例文:
・斯くなる上は、自ら責任を取るほかない。

4-3. 斯くのごとし

意味:「このようである」「こういう状態である」
例文:
・人の世は斯くのごとし、栄枯盛衰は避けがたい。

4-4. 斯くも

意味:「こんなにも」「これほど」
例文:
・斯くも壮大な景色を見るのは初めてだ。
・斯くも短き人生を、悔いなく生きたい。

5. 斯くの類語と比較

5-1. 「こう」との違い

先述の通り、「斯く」は「こう」と同義ですが、文体的な差があります。
「斯く」は文語的・格式高い、「こう」は口語的で日常的です。
例:
・斯くして → こうして
・斯くなる上は → こうなった以上は

5-2. 「このように」との違い

「このように」はより丁寧で説明的な表現です。
「斯く」は簡潔で、文の流れを引き締める効果があります。
例:
・このようにして成功した(説明的)
・斯くして成功した(文語的・簡潔)

5-3. 「かかる」との違い

「かかる」も古風な表現で、「このような」という意味の形容詞です。
「斯く」は副詞、「かかる」は形容詞として使われる点が異なります。
例:
・斯くして(=こうして)
・かかる例(=このような例)

6. 斯くを使うときの注意点

6-1. 口語では使いにくい

「斯く」は日常会話では不自然に聞こえることがあります。たとえば「斯くして成功しました」と話すと、堅苦しく感じられるでしょう。口語では「こうして」を使うのが自然です。

6-2. 文章の格を上げたいときに有効

スピーチ、エッセイ、報告書、文学的文章などでは、「斯く」を使うことで表現が引き締まり、格調が上がります。フォーマルな文章に用いると効果的です。

6-3. 「斯くありたい」は理想を表す言葉

「斯くありたい」という表現は、「このようでありたい」「こうなりたい」という意味で、理想や目標を述べるときに使われます。
例文:
・常に誠実である人間でありたい。斯くありたいものだ。

7. まとめ

「斯く(かく)」とは、「このように」「こう」と同じ意味を持つ文語的な副詞です。古くから文学や公式文書で使われ、現代でも「斯くして」「斯くのごとし」「斯くなる上は」などの形で生き続けています。
日常では「こう」を使うのが一般的ですが、文章表現やスピーチで用いれば、知的で落ち着いた印象を与えることができます。「斯くありたい」という気持ちを胸に、自らの理想像を思い描く際にも使える、日本語の奥ゆかしい言葉です。

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