ビジネスの場では、日常的な言葉を丁寧に置き換えるスキルが求められます。「持って行ってもらう」もそのひとつ。カジュアルな言い回しですが、敬語に直す際には注意が必要です。本記事では、「持って行ってもらう」の適切な敬語表現と、場面別の使い方、丁寧な言い換えについて詳しく解説します。
1. 「持って行ってもらう」は敬語ではない?
1-1. なぜそのままでは失礼になるのか
「持って行ってもらう」という表現は、主に話し手が目上の相手に依頼・報告する際には不適切とされます。この言い回しには敬語の成分が含まれていないため、カジュアルな印象を与えてしまうのです。
例:
「この資料、明日の会議室に持って行ってもらえますか?」
→ 目上の人に対して使うと失礼にあたる可能性あり。
1-2. 丁寧語・謙譲語・尊敬語の観点から見る
敬語には「丁寧語」「謙譲語」「尊敬語」の3つがあります。「持って行ってもらう」の場合、「行く」「もらう」という動詞をどのように敬語化するかが重要になります。
「持って行く」→「お持ちいただく」「ご持参いただく」
「もらう」→「いただく」「お願いする」
2. 「持って行ってもらう」の敬語表現一覧
2-1. よく使われる丁寧な言い換え例
以下は、ビジネスで使える敬語表現の代表例です。
「お持ちいただけますか」
「ご持参いただけますでしょうか」
「お手数ですが、お運びいただけますと幸いです」
「お手持ちの上、ご移動いただけますか」
これらの表現は、相手に敬意を示しながら依頼のニュアンスを伝えることができます。
2-2. カジュアル→丁寧な表現の変換例
カジュアル表現 丁寧な敬語表現
これ、持って行ってもらえる? こちら、お持ちいただけますでしょうか
明日の会議に資料をお願いね 明日の会議にご持参いただけますと幸いです
この荷物、運んでくれる? この荷物をお運びいただくことは可能でしょうか
3. ビジネスメールでの使い方と注意点
3-1. 丁寧な依頼メールの例文
件名:資料ご持参のお願い
本文:
〇〇様
お世話になっております。
明日の会議に際し、以下の資料をご持参いただけますと幸いです。
何卒よろしくお願い申し上げます。
このように、「ご持参いただけますと幸いです」は控えめで丁寧な依頼表現としてよく用いられます。
3-2. 強制的に聞こえない表現のコツ
敬語でも、命令的に響いてしまうと相手に圧力をかける印象になります。以下のような言い回しを工夫することで、やわらかく伝えられます。
「可能でしたら〜」
「お手数ですが〜」
「ご都合がつくようでしたら〜」
例:
「お手数ではございますが、明日の打ち合わせ時にご持参いただけますでしょうか。」
4. シーン別「持って行ってもらう」の敬語変換例
4-1. 上司に依頼する場合
✕「この資料、明日の会議に持って行ってもらえますか?」
〇「お忙しいところ恐縮ですが、こちらの資料をご持参いただけますでしょうか」
4-2. 取引先に依頼する場合
✕「そちらで当日、書類を持って行ってもらえますか?」
〇「当日、書類をご持参いただけますよう、よろしくお願い申し上げます」
4-3. 社内メンバーに丁寧に頼む場合
✕「代わりにこれ、持って行ってもらっていい?」
〇「お手数ですが、こちらをお持ちいただけますか?」
5. 「持って行ってもらう」の敬語に関連する表現
5-1. 「届ける」「預ける」などの動詞を使う場合
ビジネスでは「持って行く」以外にも、「届ける」「預ける」「運ぶ」などの動詞を敬語化して使うことがあります。
「資料をお届けいただく」
「荷物をお預けいただく」
「商品をお運びいただく」
文脈によって適切な動詞を選ぶことで、より自然で伝わりやすい文章になります。
5-2. 尊敬語と謙譲語の使い分け
相手が行動する → 尊敬語「お持ちいただく」「ご持参いただく」
自分が行動する → 謙譲語「お持ちします」「お運びいたします」
例:
自分が資料を届ける場合 →「資料をお持ちいたします」
相手に資料を持ってきてもらう場合 →「資料をご持参いただけますでしょうか」
6. 敬語に慣れていない人が陥りやすいミス
6-1. 動詞だけを敬語にして終わらせる
✕「これ、持っていただけますか?」
→ 「行く」の部分が省略されていて不自然。
〇「こちらをお持ちいただけますか」または「ご持参いただけますでしょうか」
6-2. 丁寧すぎて意味が分かりにくくなる
「こちらの物品を明朝ご移送いただくご協力を賜りますようお願い申し上げます」
→ 遠回しすぎて伝わりづらい可能性があります。
大切なのは、「丁寧かつ分かりやすく」を心がけることです。
7. まとめ:「持って行ってもらう」を自然な敬語で伝える
「持って行ってもらう」は、ビジネスで頻繁に使われる行動表現ですが、そのままでは丁寧さに欠けるため、場面に応じた敬語に言い換える必要があります。
「お持ちいただく」「ご持参いただく」「お運びいただく」などの表現を適切に使い分けることで、相手への配慮が伝わり、信頼関係の構築にもつながります。
丁寧な依頼には「お手数ですが」「可能でしたら」といったクッション言葉を添えることで、やわらかさと誠実さを演出できます。
本記事の例文を参考に、「持って行ってもらう」の表現力を磨いて、より円滑なビジネスコミュニケーションを目指しましょう。