「もとより」は文章やスピーチ、ビジネス文書などで見かけることの多い表現ですが、意味や使い方を正しく理解している人は意外と少ないかもしれません。本記事では「もとより」の意味、使用例、言い換え表現、注意点まで詳しく解説し、正しく自然な日本語の運用をサポートします。

1. 「もとより」とは?意味と基本的な理解

1-1. 「もとより」の定義

「もとより」は、古語の「本より」に由来し、「初めから」「言うまでもなく」「もちろん」という意味を持つ副詞です。話し手の認識や判断を強調するために使われます。

1-2. 漢字表記と由来

「もとより」は「本より」と漢字で表記されることもありますが、現代文では平仮名で書くのが一般的です。「本」は物事の根本や始まりを示す語で、「もとより」はそこから転じて「元から」という意味になりました。

1-3. 現代語での使われ方

現代では少し格式ばった印象を持つ言葉ですが、ビジネスやフォーマルな文章でよく使われています。「当然」と似た意味で用いられますが、語感にやや上品さや古風さがあります。

2. 「もとより」の使い方と文例

2-1. 肯定の意味での使用

「もとより」は「当然である」という意味でよく使われます。この用法では、話し手が当然と考えていることを強調するために使われます。
例文
・彼はもとより、部長にも報告済みです。
・安全管理はもとより、従業員の健康にも配慮しています。

2-2. 否定文での使用

「もとより〜ない」という形で使うと、「まったく〜ない」「初めから〜ない」という強い否定を表します。否定の度合いを強める文脈で効果的です。
例文
・彼の提案にはもとより賛成できません。
・そんな無理な条件はもとより受け入れられない。

2-3. 他の要素との並列で使う

「もとより〜、〜もまた」という形で、他の要素と並列に語るときにも使われます。あることを当然としたうえで、さらに他のことにも言及する構文です。
例文
・業績の改善はもとより、職場環境の向上にも取り組んでいます。
・災害対策はもとより、日常の防犯にも力を入れています。

3. 類語との違いと使い分け

3-1. 「もちろん」との違い

「もちろん」は現代日本語で最も一般的な表現で、日常会話にも広く使われます。「もとより」はそれに比べてやや文語的で硬い印象があり、文章で多く用いられます。
例:
・もちろん私は知っています。(口語)
・それはもとより承知しております。(文語的・丁寧)

3-2. 「言うまでもなく」との違い

「言うまでもなく」は説明不要なことを前置きとして伝える言い回しであり、やや客観的です。「もとより」は主観的な判断や価値観に基づいて使われることが多いです。

3-3. 「当たり前」との違い

「当たり前」は一般常識としての当然さを表しますが、「もとより」は自分や話し手の立場から見て当然であるというニュアンスが強いです。使い分けには語調と文体の選択が重要です。

4. 「もとより」を使う際の注意点

4-1. フォーマルな場面に適した表現

「もとより」は文語的な表現であるため、日常会話よりもビジネスメールや論文、挨拶文などの場面に適しています。カジュアルな会話では「もちろん」や「当たり前」が自然です。

4-2. 文脈によっては違和感が出る

現代語感ではやや堅苦しい印象があるため、文全体のトーンとの整合性に注意が必要です。特に若者言葉や軽い会話の中で使うと、浮いてしまう可能性があります。

4-3. 曖昧さを避けるための工夫

「もとより」が指す対象が不明確だと、文章の意味が伝わりにくくなります。使用する際は、対象となる言葉や文を明示し、文全体が論理的に成り立つように構成しましょう。

5. 「もとより」の英語表現

5-1. 肯定の場合の英訳

「もとより=当然」という意味であれば、英語では “of course” や “naturally” が一般的な訳になります。ビジネス文書では “It goes without saying that...” も適切です。
例:
・その件はもとより承知しております。
→ I am of course aware of the matter.

5-2. 否定の場合の英訳

「もとより〜ない」は “not at all” や “by no means” などで表現されることが多いです。文の強い否定を示す表現として英語でも応用可能です。
例:
・私はもとより彼の意見に賛成できない。
→ I cannot agree with his opinion by any means.

6. まとめ

「もとより」は、「初めから」「当然ながら」「まったく〜ない」といった多彩な意味を持ち、ビジネスやフォーマルな場面で重宝される表現です。その一方で、やや文語的・古風な語感を持つため、使い所を誤ると不自然に感じられる場合もあります。正しい意味と使い方を理解し、文脈に応じた適切な表現選びを意識することが、自然で説得力ある日本語表現につながります。

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