「干鰯(ほしいわし)」とは、読んで字のごとく「乾かしたイワシ」を意味する言葉です。
しかし、単に食用の干物を指すだけでなく、江戸時代以降は農業用の肥料として非常に重要な役割を果たしてきました。
この記事では、「干鰯」の意味や使い方、歴史的背景をわかりやすく紹介します。

1. 干鰯とは?

「干鰯(ほしいわし)」とは、イワシを乾燥させたものを指します。
もともとは食用として干したイワシを意味していましたが、のちに肥料や飼料として利用される干物状のイワシを指すようになりました。

干鰯(ほしいわし):イワシを干して乾かしたもの。古くは肥料として用いられた。
(出典:広辞苑)

つまり、「干鰯」は単なる魚の保存食ではなく、農業と経済の発展を支えた資源でもあったのです。

2. 読み方と表記

  • 漢字表記:干鰯
  • かな表記:ほしいわし
  • 別表記:干いわし、乾いわし

「干鰯」は「ほしいわし」と読みますが、現代ではあまり一般的ではなく、主に歴史・農業の文脈で使われます。

3. 干鰯の用途

3-1. 食用

干したイワシは、保存性が高く、旨味が凝縮されるため、古くから日本各地で食用にされてきました。

  • 煮干し(だし用の干しイワシ)
  • 丸干し(そのまま焼いて食べる)
  • 田作り(正月料理に使う小魚の乾物)

3-2. 肥料(干鰯肥料)

江戸時代以降、「干鰯」は高級な有機肥料として全国の農村で使われました。
特に綿・菜種・茶・タバコなど、肥料を多く必要とする商品作物の栽培に欠かせないものでした。

  • 干鰯肥料:魚を乾燥・粉砕した肥料。窒素分が多く、作物の生育を促進。
  • 江戸時代中期〜後期にかけて、房総半島や三浦半島などが主な産地。
  • 特に「江戸干鰯」として、江戸の商人が全国に流通させた。

このように、干鰯は「魚肥(ぎょひ)」の代表格として、近世日本の農業革命を支えた重要資源となりました。

4. 干鰯の生産と流通の歴史

4-1. 江戸時代の干鰯産業

江戸時代、沿岸地域では大量に獲れるイワシを干して肥料に加工し、都市部や農村へ販売する「干鰯商(ほしいわしあきんど)」が活躍しました。

特に千葉県九十九里浜・房総・三浦・駿河湾などが一大産地で、
これらの地域の漁業と農業が干鰯を媒介にして結びついていたのです。

干鰯は「金肥(きんぴ)」と呼ばれる高価な肥料の代表で、
江戸時代の農家はこれを買うために金を支払ったことから「金の肥料」とも呼ばれました。

4-2. 明治以降の衰退

明治時代に入り、化学肥料(硫酸アンモニウムなど)が登場すると、
干鰯は次第に姿を消していきました。
しかし、戦後の有機農業の復興とともに、自然由来の肥料として再評価されるようになっています。

5. 干鰯に関することわざ・表現

  • 干鰯の目にも涙:冷酷な人でも時には情けをかけることがある、という意味のことわざ。
    「干鰯」は干からびて涙などない魚であることからの比喩。
  • 干鰯売り:江戸時代に干鰯を農村へ売り歩いた行商人。

「干鰯の目にも涙」は、干物のイワシという無情なものに「涙」を重ねた、
ユーモラスでありながら人間味のある表現です。

6. 英語での表現

干鰯を英語に訳す場合は、文脈によって表現が異なります。

英語表現 意味・用法
dried sardine 食用の干したイワシ。例:煮干しや丸干し。
fish meal fertilizer 肥料としての干鰯。粉末状の魚肥。
dried fish fertilizer 乾魚を原料とした肥料の一般的表現。

7. まとめ

「干鰯(ほしいわし)」とは、イワシを乾燥させたもので、江戸時代には重要な肥料として利用されたものを指します。
農業経済の発展に大きく貢献し、近世日本の産業構造を支えた存在でした。
また、「干鰯の目にも涙」ということわざにも残るように、日本文化に深く根付いた言葉でもあります。

おすすめの記事